橋本治
『ひらがな日本美術史』第7巻/橋本治
年末に読み終わっていたのだけど、なかなかじっくりblogを書ける状況になかったこともあり、感想upが遅くなりました。
書いたらいよいよこのシリーズ終わっちゃうし、「終わらせたくない」という意識もちょっとあった。でも今週末が図書館の返却期限なので、しょうがない、書きましょう。
というわけで、『ひらがな日本美術史』の最終巻。明治以降篇です。
『江戸にフランス革命を!』でも取り上げられていた「明治の浮世絵師」井上安治に始まり、高橋由一、黒田清輝、高村光太郎、竹久夢二などなど。そして最後が表紙にもなっている、亀倉雄策による「東京オリンピックのポスター」。
正直、前の6巻ほどはわくわくしなかった。
面白いのは面白かったけど、取り上げられてる作品を見て「あ、これも好き。こっちもいいな。うわ~、これなんか最高!」って思うことが、ほとんどなかった。
「うわぁ、すごい」と思ったのは今村紫紅の「熱国の巻」ぐらいかな。
高橋由一の「鮭」とか「豆腐に油揚げ」を描いたものも、「すごいなぁ、うまいなぁ」とは思ったけど。
「鮭」って、たぶん美術の教科書かなんかでも見たことがある。縄で吊られた新巻鮭(?)の、半身が削がれてる絵。
「うわ、鮭だ」というインパクトがすごい。「本物みたい」と感心はするけど、「鮭」を部屋に飾ろうとも思わないしな……って。「油揚げ」の絵も、ホントにちゃんと「油揚げ」で「おおっ」と思うんだけど、でも「豆腐と油揚げ」の絵を私にどうしろと?(笑)。
でも、この巻に取り上げられてる油絵の中では高橋由一が一番好きかな。
黒田清輝の「湖畔」(これもみなさん、きっと目にしたことがあると思う)なんて、「日本人の好きなもの」ってタイトルがつけられてるぐらいポピュラーだけど、私、あんまり好きじゃない。
日本人の「印象派好き」に通じる美しさ、みたいなことも書いてあって、そういや印象派も別に好きじゃないんだよな。
油絵自体がもしかして嫌いかもしれない。
ルネサンス絵画とかは好きだと思ってたんだけどなぁ。レンブラントとか見に行ったし、ウィーン美術史美術館展とか、昔はそーゆー展覧会もよく見に行ったんだけど。
『ひらがな日本美術史』で水墨画や大和絵の美を改めて「好きだなぁ」と思ってしまうと、油絵の具のあのコテコテ感に拒否反応が……。
それになんか、描かれてる題材にもこう、共感できないっていうか、「だから何?」みたいな(笑)。
黒田清輝とか梅原龍三郎とか、教科書的に「大家」とされて、その筋から「こーゆーのを芸術というんだ」とお墨付きされてるようなものって、つい「どこがいいんだ、そんなもん!」とケンカを売りたくなったりもするし。
棟方志功を扱った章で、ちょっとそういう言及がある。
「だから、ヴェネツィア・ビエンナーレで、さっさとグランプリをさらって行く。そうなる前の棟方志功を「近代日本第一の画家」として位置付けなかった日本美術は、「近代とはなにか?」というせせっこましい問いに足を取られていただけなのである」
「西洋に追いつけ追い越せ」「早く近代化しなくちゃ」と焦って、「それ以前の日本」を振り捨ててしまった明治以降が、全般的に好きだと思えない。
明治維新ではなく、「江戸のフランス革命」が起こっていたら良かったのに、と本気で思ってしまう。
訪れた近代の中でもがき、自分なりの「美」を求めて格闘した画家達の奮闘ぶりには拍手を送るけれど、やっぱりなんか、だからこそ近代は「作家性」が勝ちすぎて、絵画であっても「私小説」のようで……。
「だから何なの?」
と言いたくなる。
それ以前の、「作家」であるよりも「職人」であるような、「お客さんを喜ばせてなんぼ」みたいな作られ方をしたものの方が、ずっと楽しくてきれいで好きだな。
お客さんの注文に応じながら、それでいてちゃんと自分なりの「遊び」を付け加えておく、みたいな。
「近代」が確立しようとした「自我」はそんなにたいそうなものだったんかいな、とも思ってしまう。こうしてずっと、日本人が生み出してきた「美しいもの」の歴史をたどっていると。
「ビジュアルで日本のあらすじを描く」という橋本さんの試みは、見事に成功しています。「政治体制の変化ばかりが歴史じゃない」――うん、ほんと、その通りですね。
そして、「なんで、みんな“日本のこと”を知らないままで平気なんだろう?」という橋本さんの問い。
政治体制の変化を追うよりずっと楽しいし、ずっとよく「日本人」のことがわかる気がするこのシリーズ。ぜひ皆さんも一度手にとってくださいまし。
【おまけ】
・ただいま美術館「えき」KYOTOでは「四大浮世絵師展~写楽・歌麿・北斎・広重~」を開催中!(浮世絵全盛期を扱うのは『ひらがな日本美術史』6巻)
にわか日本美術ファン(笑)としては行かずにはいられない! すでに前売り券は入手してあり、今のところ12日に見に行く予定。この間北斎は見たけど、歌麿や写楽が楽しみです。
・昨日だったか新聞広告が出ていたんだけど。2月になんばの高島屋で「若沖と琳派展」(タイトル間違ってるかも)がある!(奇想の画家伊藤若沖が出てくるのは『ひらがな日本美術史』5巻)
なんばか……。遠いな、滋賀からじゃ。っていうかこれ、以前に別の高島屋で開催されたのと同じだったら、京都の細見美術館のコレクションから持ってくるんやん。京都行った方が早い……。近いうちに行ってみよっと!
【関連記事】
・『ひらがな日本美術史』第1巻/橋本治
・『ひらがな日本美術史』第2巻/橋本治
・『ひらがな日本美術史』第3巻/橋本治
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・『ひらがな日本美術史』第5巻/橋本治
・『ひらがな日本美術史』第6巻/橋本治
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