橋本治
『ひらがな日本美術史』5巻/橋本治
すっかり江戸時代の、『ひらがな日本美術史』第5巻です。
表紙は喜多川歌麿の「ポッピンを吹く女」。
写楽や初世歌川豊国も登場し、いよいよ浮世絵全盛時代に突入するわけですが。
この巻の最初は円山応挙で、その後曾我蕭白、長沢蘆雪、伊藤若沖と、後に「奇想の画家」と呼ばれる人々が紹介されています。
浮世絵は江戸で発達するわけですが、同じ頃京都では、水墨画をベースに独自の「日本画」となっていたいわゆる「ちゃんとした絵」が、色々な試行錯誤をしていたそうです。
江戸時代、首都は「江戸」だったけど、「京都」を中心とする上方にはやっぱり昔ながらの「文化」があって、「新しいかもしれない美術」も色々生まれていた、と。
あまりにも有名で「見たことのある」浮世絵よりも、「見たことのない」画家達の絵が、面白かった。
曾我蕭白、長沢蘆雪、伊藤若沖の3人は、1970年に出版された『奇想の系譜』という本によって有名になったらしく、「奇想の画家」という呼び名もその時に名付けられたものらしいのですが。
なるほど、「へぇ~」って思います。
「こーゆー絵があるんだ」って、びっくりする。
曾我蕭白は、ほんとにこう、オカルトっぽく奇想というか、極彩色に奇想というか、「お腹いっぱい」になってしまう絵で。
描く蕭白もすごいけど、こーゆー絵を「若君ご誕生のお祝いに」とか言って喜んで飾ってしまう当時の鑑賞者はもっとすごいという。
「所変われば品変わる」じゃないけど、「何を素晴らしいと思うか」というのは、時代や地方によってこうも違うもんなのねぇ、ということがよくわかる。
まぁ、蕭白の絵は、「すごい」のは「すごい」んだけど、ホントに。家に飾っておきたいかと言われたら、「え」となるだけの話で。
伊藤若沖は色んな技法の絵を、「一人で美術史の試行錯誤をする」みたいに色々描いている人で。
すごくうまいし、「江戸時代にこんな、点描で絵を描いたり、方眼紙を塗りつぶすような絵を描いたりする人がいたのか」と感心してしまう。当時の「絵」の常識からいえば「そんなものは絵じゃない!」と言われそうな技法を使って、でも彼は「当時の絵」もちゃんと素晴らしく描ける人でもある。
決して、「変な絵ばっかり描いてた」人じゃなくてね。
面白いなぁ、と思う。
それに、そーゆー「京の画壇の試行錯誤」と同時に江戸では大衆のための絵画「浮世絵」が発達していて、『文化の本流がなにかをゴチャゴチャとやっている時、それとはまったく関係ないものが現れてすべてをさらってしまう』(P63)という橋本さんの視点がやっぱりとっても面白い。
「ちゃんとした絵」を「純文学」に、「浮世絵」を「マンガ」にたとえてお話してくれるんですよね。
なんてわかりやすい。
あと個人的に、「京の画壇のごちゃごちゃ」の中に呉春が出て来たのが嬉しかった。
呉春って、私の出身地大阪府池田市の地酒の名前で(笑)。
それは池田にゆかりの画家、呉春さんの名から来ているらしく、呉春さんの名前自体が池田の古名「呉服(くれは)の里」からとったものらしくて。
池田に滞在していたことのある画家さんなのですね。しかも円山応挙とともに「円山・四条派」と呼びならわされる「京都日本画壇の遠祖」なのだとか。
そんなすごい画家さんだったのねぇ。知らんかった……。
掲載されている呉春さんの「白梅図屏風」も、池田の逸翁美術館にある作品。
逸翁美術館って、阪急グループの創始者小林一三翁が収集した美術品を、そのお屋敷「雅俗山荘」に展示している美術館なんですけど。
私も、1回だけ行ったことがあります。
そーいえばこの梅の屏風、見たことがあるようなないような(笑)。
現在逸翁美術館は池田文庫の隣にお引っ越し中らしく、休館しています。新館オープンは2009年の秋ということなので、その時には一度見に行ってみたいなぁ……って、ものすごく個人的な話でしたね。
気を取り直して、橋本さんの『ひらがな日本美術史』の話。
この5巻では、「盆栽」も取り上げられています。
この、「盆栽」のお話がまた。
なんか、感動的で。
「ああ、私は盆栽が好きかもしれない」とつい思っちゃう(笑)。
橋本さんの視点って、何を語る時にもやっぱり愛があって温かくて、読んでると「これも好き」「あれも好き」「実物を見てみたい」ってつい思わされてしまう。
美術品そのものも素晴らしいけど、橋本さんの筆がほんとに素晴らしいんですよねぇ。うん。
正直、自分がこんなに日本の美術を好きだなんて、全然思ってなかったもん(笑)。
たぶん、今読んで好きになったんだと思うけど、昔から好きだったような気がしてくるから不思議(爆)。
まさしくこれも「橋本治の恵み」であります。
【関連記事】
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・『ひらがな日本美術史』第2巻/橋本治
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