『ひらがな日本美術史』3巻目は、華麗なる安土桃山時代!

日光東照宮から始まって、能装束に変り兜、狩野永徳に長谷川等伯、岩佐又兵衛、姫路城に「誰が袖屏風」。

って、あれ?と思った方。

「日光東照宮は安土桃山じゃねぇだろ?」

江戸時代のはずですよね、あれは。徳川家康を祀るものなんだから。

しかも現在のあのゴージャスな東照宮は、3代将軍家光によって改装されたもの。最初の東照宮はもっと地味なものだったそうな。

時代区分としてはもう「江戸時代」になってしまっている建物だけれども、橋本さんによると、あの絢爛豪華な東照宮は、「安土桃山時代的な派手さが手つかずのまま残されている日本で唯一の大記念碑」なのだそうだ。

安土城とか伏見城とか、本当に「安土桃山時代」に作られたものはほとんどが喪われてしまっている。

織田信長も豊臣秀吉も結局は「敗者」になってしまって、最後に笑った家康を祀るものだけが、今もその絢爛な姿をそのままに残し、当時の息吹を伝える。家康自身は「安土桃山時代」を生きた人なんだから、その霊廟が「安土桃山」の精神で作られているのは別に不思議ではないのかも。

家康は死んで「東照大権現」になったんだけど、秀吉は死んで「豊国大明神」になっている。

「死んで神様になる」は、秀吉が始めたことだそうな。

それまでは、「祟るから神様にしとけ」であって、自分から「死んだら神様になる!」と言う人はいなかった。

秀吉が神様になってしまったもんだから、その奥方である北の政所、ねねさんは夫が死んでもすぐ出家できなくて困ったのだとか。

夫に先立たれた妻は出家して夫の菩提を弔う、というのが普通だったのに、夫が「仏」じゃなくて「神様」になっちゃった場合どーしたらいいのかという……。

「神様」と「仏様」に関する日本のごちゃごちゃは色々面白かったりしますね、ほんとに。


秀吉の妻、ねねさんの話は「高台寺蒔絵」のところでたっぷりと出て来る。

ここはもう、なんか、ホントにそのまんま小説になりそうというか、「ええ話やなぁ。うるうる」だった。晩年の秀吉は淀君にぞっこんで、正妻ねねさんは寂しい思いをしてたんだよね。でも、ねねさんはやっぱり秀吉を愛してて、秀吉の思い出を胸に晩年を生きた。

高台寺って、愛の寺なんよ。

うっ、泣けるわ。

私が初めてちゃんと見た大河ドラマは「おんな太閤記」だったし、ねねさんにはなんとなく思い入れが深い。男達が好き勝手に自己主張する陰で、戦国時代の女達も生きて愛して戦ってたんだよなぁ。

こーゆーふうに読まされると、「歴史」を知るのって本当に楽しいのにね。年号の羅列じゃなくって、「人間のドラマ」として教えてもらうとさ。


んで。

安土桃山といえば金碧障壁画。金碧障壁画といえば狩野永徳。

京都国立博物館で「狩野永徳展」を見たのがちょうど1年前です。そしてその「狩野永徳展」の出口には、「狩野派がもっとも恐れた絵師、長谷川等伯!」などというコピーとともに、「3年後」の「長谷川等伯展」を宣伝する看板が。

去年の3年後なんだから、2010年?

まだあと2年もあるけど、「長谷川等伯」展も見に行かなくっちゃなぁ、とこの本を読んで思いました。

正直、名前は聞いたことあるけど、等伯がどーゆー絵を描く人かよく知らなかった。

橋本さんによると、等伯の絵からは「ジャズが聞こえる」。

おおおおっっっっっ。

確かにこの『松林図屏風』はすごくかっこいい。お洒落というか、粋というか。

もともとは、この屏風は屏風ではなく「襖絵」として構想された可能性があるらしい。

こんな襖絵に囲まれた空間。想像するだけでわくわくする。

去年の「狩野永徳展」の時の記事で、「やっぱりガラスケースに展示されているより、襖絵は本当に襖として部屋にある方がいいな」などという生意気なことを書いたんだけれども、永徳にしても等伯にしても、安土桃山時代の「金碧障壁画」というものは、「とんでもなく巨大な幻想空間を作り出すものだった」と橋本さんが言ってくれている。

眺めて「お勉強する」ものではなくて、その空間に飛び込んで「感じる」ものだから、「私は安土桃山時代の障壁画が大好きだ」と。

わかるな、と思って嬉しい。


他にも、「泰西王侯騎馬図屏風」はすごくかっこいいし、「誰が袖屏風」はホントにセンスがいいし、安土桃山時代はやっぱり素敵だ。

大河ドラマが戦国時代に集中してしまうのも無理ないな、と思う。

武将達の活躍のみならず、その武将の生活を彩った絵師や職人達にもみなぎるセンスとパワーがあって、あの時代の躍動感というのは退屈な日本史(笑)の中でやっぱり特別なものがある。

この3巻の帯には「お金と芸の使い道は、安土桃山に聞け」というコピーが書かれてある。

そして3巻の最後の章で、橋本さんはこう書く。

「ああ、昔の日本人は、金があってもセンスがよかったんだ」と思うと、なんだか涙が出そうになる。

いや、まったく。

一体どうして、あのセンスと矜持はなくなってしまったんでしょうね。


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