本
『ローマから日本が見える』/塩野七生~リーダーの条件~
『ローマ人の物語』で有名な塩野七生さんによる、「簡単ローマ史」みたいな本です。
『ローマ人の物語』(単行本全15巻、文庫は現在34巻まで刊行)を全部読むのはめんどくさい、という方におススメ。
私としても、先頃出た文庫32~34巻を読む前の、いい「おさらい」になりました。
もっとも、この本ではローマ建国から初代皇帝アウグストゥスあたりまでしか語られていないので、その後の展開はまた別におさらいしないといけないんですけれども。
タイトルにある通り、「日本が見える」というのが一つのポイントで、ただ「ローマ史の概略」を語るだけでなく、「なぜ日本にリーダーは登場しないのか」といった論考もあります。
ローマ共和政初期の、ちゃんと機能していた「元老院」というのは、「55年体制の自民党」みたいなもんだとかね。
当時、ローマの政治は二人の執政官によって行われていて、その二人は「市民集会」での選挙によって選ばれていたんだけれども、実質的に「元老院」に属する人間しかなれなかったし、「元老院」の支持がなければなれなかった。
「元老院」というのはローマの「人材のプール」だったんだけれども、「元老院議員」でないと「執政官」になれないっていうところが、「55年体制の自民党と首相の関係」そっくりだと。
「内閣総理大臣になろうと思えば、まず自民党員でなければどうにもならないし、国会指名よりも何よりも、自民党の総裁になることが先決したのです」(P87)
実にまったくその通りですね。
55年体制は崩れてしまったかもしれないけど、「自民党総裁=首相」という構図は、今のところまだ崩れていません。
もっとも塩野さんは、「今の自民党が“人材のプール”であると思う人は、もはやどこにもいないでしょう」と書いてくれるんですけどもね。
そうそう、ローマの「執政官」って、任期は1年なんです。
1年ごとに市民集会で選挙して選ばれる。
1年なんて短い期間で何ができるんだ?と思うけれども、次の執政官はまた「元老院」の中から出てくるわけだし、任期を終えた執政官もまた「元老院」に戻る。
個人の任期は1年だけれども、その個人が「元老院」に立脚している以上、政治の流れ、政策の流れは引き継がれる、ってことなんです。
うーん、ますます「自民党」やな(笑)。
だから安倍さんも福田さんもちゃんと「1年」で辞めたのか(爆)。
ローマの「元老院」というのは、「個人の突出・独裁を許さない」というところから生まれた「寡頭政」だったんだけれども、そーゆー「個人の突出を許さない」っていうのも日本と似てますよね。
誰が一番偉いのかよくわからないシステムにしておく、っていうのが、藤原摂関政治以来の日本の伝統ではあるし。
古代ローマ人は農耕民族だったし、多神教で、日本人と通じるところがけっこう多い。
キリスト教という一神教世界になってしまったヨーロッパよりもむしろ、日本の方がよく「ローマを理解できる」のではないか、と塩野さんがおっしゃる由縁です。
まぁ「古代ローマ人」の「市民が一丸となって国を守る」とか、「貴族階級のノーブレス・オブリージュ」とか、日本にはなかったなぁ、という部分も多いですけど。
この本はもともと2005年に出版されていて、まだ安倍さんや福田さんが政権投げ出しをしていない時期に書かれたものなんですけど、第9章の「ローマから日本が見える」や特別付録の「英雄達の通信簿」は、まるで今度の解散・総選挙を見越して書かれたのではないか、と思えるほど「これからの日本の政治」を考えるうえで参考になります。
……っていうか、むしろ暗澹たる気持ちになるかな?
日本にそんなリーダーが現れるわけはない!みたいな(笑)。
イタリアの高校の歴史教科書には、
「指導者に求められる資質は次の五つである。
知力。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。
カエサルだけが、このすべてを持っていた」(P360)
と書かれているそうです。
高校で「指導者に求められる資質」を習うってところがもう、日本とは段違いですけど、日本で「リーダーの条件」といったら必ず「決断力、実行力、判断力」みたいなことが出てくるでしょう。なのにイタリアでは、そんなことは書かれていない。
塩野さん曰く、
「人の上に立とうと思ったら、そんなん持ってて当たり前」やからだそうです。
そんな「当たり前」のことを「条件」に挙げなければいけない日本は、レベルが低すぎるってことですね。ははは。
「日本人にとってのリーダーとは、要するに“調整能力の優れている人”でしかない」(P362)
このへんの、塩野さんのずばっとした辛辣なご意見はもう、ほんと、読んでて気持ちいい。もっと言ってやって!って思っちゃう。
ってゆーか、あたしら「国民」がもっと言わなあかんねんやろね。
結局はあたしらの意識が低いから、あの程度の政治家ってことなんやから……。
投票の前に、是非ご一読を。
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2 Comments
こんばんは~♪コメントありがとうございました[E:clover]
返信削除>あたしらの意識が低いから、あの程度の政治家ってことなんやから
結局は、そういうことなんでしょうね。
市民の自覚って、現在でも殆どの人がないのだと思います。
他国との戦争を経験してると言っても占領されて植民地になったわけでもないし‥。
「お上」意識がいまだに脈々と続いていて、参政権はあっても、官僚やお上に任せておけば何とかしてくれるだろうって思ってる。
同一民族だから内戦も起きないし・・。
�� ̄o ̄)あ?!
「同一民族」と言ったら、何処かの大臣みたいに政治家としての見識を疑うと言って、下ろされちゃうのでしたね。(笑
��知力。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。
リーダーに求められる資質として、なるほどなと思って読ませて頂きました。[E:good]
��mellow様
返信削除「「お上」意識がいまだに脈々と続いていて、参政権はあっても、官僚やお上に任せておけば何とかしてくれるだろうって思ってる」
そうなんですよね。
自分もそうだし……。
blogじゃ色々文句も書いてるけど、それを実際なにかもっと具体的な行動に結びつけてるかっていうと……全然やってないですから[E:sweat02]
選挙にはちゃんと毎回行ってるんですけど、次の衆院選も「どっちもどっち」というか、ねぇ[E:sad]
日本の政治家にはいわゆる失言が多いですけど、あれは「自己制御の能力」が著しく低いんでしょうねぇ、きっと。
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