何かの占いで、「あなたはカエサルやナポレオンのように大いなる野心と才能で世界を動かす星の下に生まれています」なんてことを言われたこともある私だが。

カエサルのことは、よく知らなかった。

もちろん名前はよく知っているし、ユリウス・カエサルとジュリアス・シーザーは同じ人、ということぐらいは知っている(しかし実際はカエサルでもシーザーでもなく「チェーザル」と発音されていたらしい)。

ローマの人で、クレオパトラとなんか関係があって、よくわかんないけど凄い人なんだよね、という程度の知識。
『ガリア戦記』に『三頭政治』、うん、聞いたことはある。
最後は暗殺されて「ブルータスよ、おまえもか」。

そんな大雑把な知識しかないままに、『ローマ人の物語』�「ユリウス・カエサル ルビコン以前」を読みはじめ、現在�の「ルビコン以後」に入っているわけなんですが。

いや〜、塩野さん自身がカエサルファンのせいもあるかもしれないけど、確かに凄い人だ。
非常に面白い。魅力的。
天文学的数字の借金をして全然平気で女にはモテまくり、教養高く、政治にも軍事にも抜群の才能を発揮、颯爽として清々しい。

こんな人本当にいたのか、と思うぐらい。

カエサルが政治の表舞台に登場するのは30代も後半になってからで、『ガリア戦記』の頃はもう50代。クレオパトラといい仲になるのも52とか53とか。
40・50で颯爽とカッコいい男性って、ピンと来ないんだけど(笑)、言動を追う限り、カエサルは実にカッコいい。
生き方が男前。
最後には暗殺されることがわかっているだけに、「ルビコン以後」を読み進むのは複雑な心境ではあるけれど。

ホントに、これを読んでいると「一体より良い政治とは何なのか?」ということを考えさせられる。
改革と反改革、どちらが正しいかは後にならないとわからないものなのか。

で。
「カエサルの育て方」である。
塩野さんはカエサルの幼年期について述べたところで、

「男にとって最初に自負心をもたせてくれるのは、母親が彼にそそぐ愛情である。幼時に母の愛情に恵まれて育てば、人は自然に、自信に裏打ちされたバランス感覚も会得する」
(8巻−40頁)

と書いている。
男の子の母親である私にとっては「うむむ」と引っかかって我が身を振り返らずにいられない一文だが、しかし。

じゃあ女の子は???
女の子だって自負心は必要でしょう?
女の子に最初に自負心をもたせてくれるのは何なんですか?
父親の愛情だったりするの?????

カエサルのお母さんは学者一家の出身で、教養の高い女性として有名だったらしい。
女性に参政権はなかったとはいえ、アテネと違ってローマでは女の子にも初等教育は受けさせるのが習慣だったとか。

具体的にカエサルのお母さんの言動が出てくるわけではないのだけど、彼女とともに「ローマの女の鑑」と謳われたグラックス兄弟の母コルネリアについては、6巻でエピソードが出てくる。

コルネリアはハンニバルを破ってローマを救った英雄、かのスキピオ・アフリカヌスの娘。
彼女は「子は、母の胎内で育つだけでなく、母親のとりしきる食卓の会話でも育つ」(6巻−29頁)と言ったのだとか。

これまた「ううむ」。
唸ってしまう。
確かにそうだよなぁ。

グラックス兄弟は、カエサルよりは90年近く昔の人で、兄弟2人ともが改革をなそうとして非業の死を遂げる。
母コルネリアは息子の死後ローマから離れた別荘に引退したが、そのサロンには諸外国の王侯貴族、学者・文人達が変わらず集っていたのだとか。

紀元前だよ。
日本じゃまだまだ弥生時代。
そんな時代の女の人の言動がちゃんと記録に残ってるってすごいよね。
コルネリアはかなり特殊な例で、カエサルの母アウレリアにしても「カエサルの母」であればこそ記録が残るということはあるだろうけど、やはり後世に残るだけのものを持った人物だったのだろうし。

紀元前1世紀にカエサルは『ガリア戦記』や『内乱記』を出版しているし、キケロは自分の弁論集を出版している。
ひょ〜。

2000年の時を超えて彼らに出会えるのはなんと幸せなことでしょうか。