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『秘密』と“私の眼に映る世界”
清水玲子さんの『秘密』アニメ化!
アニメ『秘密』、関西では見られないのか?
『秘密』5巻/清水玲子
『秘密』6巻/清水玲子

7巻目、読みました。

土曜日(10月31日)に入手していたんだけど、「きっとまたしんどい話なんだろーなー」というのがあって、下手にスイミングスクールや体操クラブの待ち時間に読んだりすると人前で泣いちゃうことになるし、手に取るのにちょっと勇気が要って、2日ほど寝かせていました。

読んでみたら、今回はそんなにも胃が痛くならなかった。

涙も出なかった。

もちろん今回も「すごいな~、玲子さんよくこんな話考えるな~」と思う出来で、色々考えさせられたんだけど、でも私的には、2巻とか3巻とかのお話の方が好き。

雪子さんが出てきてからの話は、彼女と青木がうっとうしいからなー。もうそれだけで減点。

前作の6巻は青木配属以前の岡部さんと薪さんの話で、安心して読めたんだけど、今回は青木出てくるから。もちろん雪子さんも。

もうほんまにな~。

あんたなんかさっさと「第9」やめてどっか異動しちゃえ! あんたのせいで薪さんはよけいに苦しむんだーーーーーーっっっっっっ!!

って、思う。

そりゃ、青木の活躍のおかげで……という展開もあるんだけど、でも、やっぱり許せないわ、あんな奴。

それに引き替え今回も岡部さんは薪さんを守って、薪さんがお偉いさんに殴られたりすると血相変えて殴り返そうとしてくれたり。

やっぱり岡部さんだぁ。青木なんかいらなーい。

……なんてバカなことばっか書いてないで、ちゃんとした感想も書かなきゃな。

ネタバレになるから、あんまり詳しいことは言えないんだけど、今回の犯罪は「復讐」で、「自分と同じ目に遭わせてやる」という動機から発している。「我が子を奪われるというのがどういうことか、身をもって知れ」と。

その「復讐」はある意味「逆恨み」で、実際に犯人の娘を奪ったのは復讐相手ではない。直接的に娘に手を下した人物は特定できなくて、一般人にはとても手の出せない「外交」の絡んだ事件で、だから「復讐する対象」は当時その外交に責任があり、現在は「外務大臣」となっている男。

それは、「逆恨み」なのかもしれないけど、でも、「同じ目に遭わせてやる」っていう犯人の気持ち、わかる気がする。

人間って、やっぱり、実際に同じ目に遭わなければ、その苦しみを理解できないものなんだろう。頭で「理解」することと、現実に「苦しむ」ことは違う。「身をもって」という表現が示すとおりに、「辛酸をなめる」という表現があるとおりに、それは「体」で感じることだから。

今回の事件の発端は「外交」の絡んだもので、犯人の娘はいわば「国家」に見捨てられ、「国民の安全」と引き替えに切り捨てられた。

「人一人の命は地球よりも重い」なんて、空々しい嘘。

多数を守るために、少数は簡単に切り捨てられる。

「国家」という権力だけじゃなく、私たち国民の一人一人も、「尊い犠牲」に同情はしても、自分たちの危険を増大させようとは思わない。

「もしもそれが自分の子だったら」「自分の恋人だったら」

でも、その「尊い犠牲」を救うことで、今度は自分や自分の大事な存在が危険にさらされるかもしれない。

そんなリスクを引き受ける覚悟、ないもんなぁ。

だから、私は犯人の男に同情する。彼の完膚なきまでに残酷な復讐計画に、賛同してしまう。

相手にどれほどのダメージを与えても、もう娘は帰ってこないけれど。

復讐が見事果たされてさえ、心の「うろ」は埋めきれないだろう。

でも、「もう帰ってこない」からこそせめて、「同じ苦しみを味わわせてやりたい」と思うのは、きっと自然なこと。名刑事や名探偵の、「そんなことをしてもお嬢さんは喜ばない」なんてセリフは、きれいごとだよなぁ。

別に「国家」のような「権力」の絡んだものじゃなくても、事故や犯罪によって「遺族」にならされてしまった人達に、憎しみや復讐心を捨てろなんて、とても言えない。

……なんか、でも、こういう「復讐」、こういう「ある意味正当な理由のある」殺人や犯罪って、実際どれくらいあるんだろう。

今はむしろ、突発的な、「キレ」たり瞬間的に暴走しただけの、「そんな理由で人を殺すのか」みたいな事件が多いように思えて。

『秘密』って、「脳の蓄えた映像を再現するMRIという技術」が実用化されている近未来、今から50年以上経った世界が舞台で、一体50年後にこんな濃密な感情、哀しい犯罪は起こるんだろうかと思ってしまった。

これまでの『秘密』の事件はどれもせつなくて哀しくて、胸を締めつけられるものが多くて、でも50年後の日本に、果たして「せつない」なんて言葉は生き残ってるんだろうか、とか。


はぁ。

ともあれ薪さん、好きだけど、見てるのがつらい。新刊が出てほしいような、出てほしくないような、複雑な心境。

最後、薪さんはやっぱり自分で頭を撃ち抜いて終わるのかなぁ。そういえば「僕を護って死んだあの男」という表現が気になった。最終刊までに「あの事件」の真相は描かれるのかしら。

曖昧なままの方が面白いけど。

決して見せないために、薪さんは自分の頭を撃ち抜くんだろうしな……。