きっかけはこの集英社文庫のカバー。

『家庭教師ヒットマンREBORN!』の天野明さんが描くルパンとボートルレ。ほとんどガンマとツナです(笑)。

書店で見つけてうっかり手を伸ばしそうになり、一度は「いやいや、こんなカバーに騙されては思うツボ」とその手を引っ込めたものの、「このカバーだったら息子ちゃんも読むんじゃね?」と思い、結局買ってしまった。

読書家であるはずの息子ちゃん、ルパンもホームズも読んだことがないのだよ。

そんなことがあっていいものだろうか。

私が子どもの頃は学校の図書室にも「推理小説」の棚があって、ルパンやホームズ、エラリィ・クイーンにクリスティ、ルルーの『黄色い部屋の秘密』などが並んでいたのになぁ。

小学校5年の時に近所にできた市立図書館で「推理・SF」の棚ばっかり読んでたもんさ。

が。

今、うちの近所の図書館の児童書コーナーにそういう棚はない。

何年か前は一応ちょこっとコーナーがあったんだけど、今はすべて著者別。

そしてルパンやホームズの本は代表的なのが1~2冊ひっそり並んでいるだけ。

新しい本がどんどん出る以上、開架で置けるのは限られている。古い作品、古い本が片付けられてしまうのは詮ないことではあるのだが。

寂しい。

寂しいぞ。

ルパンもホームズも読まずに中学生になってしまった息子ちゃん。「ほらほら、このカバー見て!」と半ば無理矢理本を渡す。

残念ながらこの集英社文庫のナツイチスペシャルカバー、カバーだけで中には1葉の挿絵もない。(原著で使われた挿絵等の口絵はあるんだけど)

ガンマ=ルパンとツナ=ボートルレの挿絵が3点ほど入っていればさらに訴求力アップだったのになぁ。

が、まぁ無事息子ちゃんは読み始めてくれた。

2時間ほどぶっ続けで読んで、あっという間に読み終わってた。

息子ちゃんの読書集中力はすごいです。活字中毒度は私以上と言って過言ではありません。

「面白かった?」と訊くと、「うん、クライマックスが3回もあった!」。

息子ちゃんの後、私も読みました。ルパンシリーズは小学校高学年から中学校にかけて夢中で読んで、当然『奇巌城』も読んでいたわけですが、何しろ30年も前の話。

「これってこんな話やったんやー」

ほとんど覚えてなかった(爆)。

タイトル通りの「自然の要塞」が出てくることは覚えていたんだけど、ボートルレ君のことなんかまったく記憶にないし、「この人物って実はルパンじゃないの?」という予想はできつつもほぼ「まっさら」の状態でお話を楽しんでしまいました。

なるほどクライマックスが3回。

事件が片付きそうで片付かない。

ボートルレ君は17歳の天才探偵少年で、言うなればフランスの工藤新一くん。どっちかというとルパンよりもボートルレ君が表に出ている話。もちろん最後にはルパンの方が上手(うわて)だということがわかり、しかしやっぱりルパンにハッピーエンドは待っていないという……。

ルパンシリーズを読んでいる方はご存知かと思いますが、ルパンって惚れっぽいんです。

そしてルパンの恋は大抵成就しないんです。

ルパンが「オ・ルボアール(また会いましょう)」と言っているのに、ヒロインは「アデュー(永遠にさようなら)」と言って去っていく。

子どもの頃の私はこのやり取りに「うぉぉぉ、おフランスぅぅぅ!!!」と萌えたものでした。

私はホームズより断然ルパン派だったのですが、そのお洒落でおフランスな感じも魅力の一つだったのですよねぇ。そしてルパンが「悪党」であること。自信満々、大胆不敵、悪党だけど憎めない、「天晴れ!」と讃えたくなる。

ルパンを敵として追いつめるボートルレ君も、最後にはルパンに惹かれているものね。

あれだけとんでもない力量を持っているのに――持っているからこそ――、愛する女性と幸せな結末にはなれない、というところがまたなんとも乙女心をくすぐります。

久々にルパンの魅力に触れ、もっとルパンを読みたくなったわたくし。

図書館行って『813』を借りてきました。



この偕成社の「アルセーヌ・ルパン全集」は、私が小学校の6年か中学1年ぐらいの時に刊行が始まり、図書館に配本されるのを楽しみに読んでいたもの。

置き場所さえあれば今でも全25冊揃えたいほど愛着があります。(もっとも当時は確か全巻読破せずに終わった…)

今、近所の図書館ではこの全集は書庫に置かれています。カウンターで「この本読みたいんですけど」と言って取ってきてもらわなくちゃいけません。

カウンターのおじさん、「あ、それどっちかというと児童書ですけど、いいですか?」と訊いてくれ、「何だったら大人用のを検索しましょうか?」とまで言ってくれました。

ええ、でもそれでいいんです。それがいいんです。

「大人用」のルパンって、意外とないし。

新潮文庫の『813』なんて堀口大学訳だもの。堀口大学ってあれでしょ、『月下の一郡』。明治じゃないの!?

……昭和56年までご存命だったらしいですが。新潮文庫は1959年(昭和34年)刊行のようですが。

どっちにしてもかなり古い訳。

Amazonのレビューによるとルパンが「わし」と言っているとかいないとか。

集英社文庫の『奇巌城』も、もともと1973年に旺文社から出されたものの復刻のようで、訳文は少し読みづらい感じがします。それだけ読んでるとまぁ許容範囲なんだけど、偕成社の『813』を読むとやっぱりこっちの方がずっとすらすら読める!と思うのです。

偕成社のシリーズは「完訳決定版」「読みやすい新訳で」って後ろに書いてあるんですよねー。新訳ったってもう30年経ってるんだけど。

ハヤカワ文庫が何点か新訳でルパンを出していますが、『813』はない。

そのうち古典新訳文庫がルパンを「今、息をしている言葉で」訳してくれるかもしれませんが、まぁ全作品は無理でしょうね……。こんなに面白い『ルパン』なのに、大人向けの新しい版がないのは非常に残念。

もっとも偕成社の全集も、図書館では「児童書」と分類されていますが、「完訳」だし、大人が読んでも十分楽しめます。

『813』、一気に読みました。これまたどーゆー話だったかすっかり忘れちゃってるので、どきどきわくわく、頁を繰る手が止まらない。

そんなバカな!というところもあるんだけど、でも面白いんだなー。『続813』を一緒に借りておかなかったことが本当に悔やまれる。続きが気になりすぎる!!!

買ったまま読んでない本が何冊かあるんだけど、ちょっとこの際だからルパン全集全部読んじゃいたい衝動が(笑)。

なんかねー、最近の本は読む気がしないんだー。昔の作品で読んでないのいっぱいあるし、読んでも忘れちゃってたり、今読むとまた新たな視点で楽しめると思うし。

子どもの頃達成できなかったシリーズ読破を今やるのも楽しい。

とりあえず『続813』を早く借りに――行く前に、『813』と一緒に借りた別の本を読まねばならぬ。あうあう。


そうそう、偕成社版のいくつかはお求めやすい「文庫版」も出ています。


まだルパンに出逢っていない子ども達へのプレゼントにいかがでしょうか(笑)