『ああでもなくこうでもなく』最終巻には、『広告批評』2006年12月号から2008年8月号までに掲載された分が収録されている。

2006年の12月に何があったか覚えてる人は少ないだろうけれど、2008年8月までの間に安倍さんの政権投げ出しがあったことはみんなまだ覚えているだろう。

福田さんの政権投げ出しは2008年9月で、だから従ってこの本にはそこまでは載っていない。でも安倍さんの政権投げ出しから、自民党と民主党の「大連立」騒ぎ、小沢さんの「民主党代表辞任騒ぎ」までのところを今、改めてこの本でおさらいすると、「それを踏まえての現在」というものがよく見えてくる気がする。

年内の「解散総選挙」はあるのかないのかよくわからなくなってきたけれど、もしあったら、それは「自民党」か「民主党」かを選ぶ選挙であり、「麻生さん」か「小沢さん」かを選ぶ選挙になる。

「麻生さん」か「小沢さん」かっていうのは、なんか「あなたは地球最後の女性で、地球最後の男性が気持ち悪いことで有名なお笑い芸人のAとBの二人だったら、あなたはどちらを選びますか?」というような、ある意味「究極の選択」のような気が、私はしてた。

どっちかしかダメなの? 他に選択肢ないの? じゃ、ずっと独身でいる、みたいな(笑)。


「民主党」は「サラリーマンの自民党」で、「なんでみんなそんなに民主党に期待してるのかわからない」というようなことは、前の『ああでもなくこうでもなく』にすでに書いてあった。

今回も、「小沢一郎は民主党のやとわれ代表で、自民党田中派の最後の生き残りみたいなもので、彼が党首であるということは、民主党は自民党の外にある自民党非主流派みたいなものである」というようなことが書いてある。

橋本さんの文章を要約するのはすごく難しいし、私がちゃんと理解しているかどうかもわからないので、もしかしたら上の文章は間違ってるかもしれない。

でも私自身、ずっと、「なんで民主党の代表は小沢さんなんだろう」と思ってたんだ。

小沢さんが党首になっちゃったら、民主党のアイデンティティというのはどうなるの?と。

「なっちゃったら」も何も、もうけっこう長いこと党首なんだけど。

大連立騒ぎ後の辞任騒動でも、結局引き留められたぐらい、民主党は小沢さんを必要としている。

小沢さんは選挙に強い。選挙に勝つために、民主党は小沢さんを必要としている。

選挙に勝たないと政権は取れないわけで、しょうがないっちゃしょうがないんだろうけど、そのために「自民党田中派の末裔」である、とっても「55年体制的」小沢さんにおいで願わなきゃいけないということは、つまり「自民党」のやり方でないと選挙には勝てないってことだ。

安倍さんが政権を投げ出すきっかけになった参議院選挙で、民主党は大勝した。それは小沢さんが地方の一人区を地道にまわった成果らしい。

そーゆーことはかつて、自民党がしていた。

小泉さんが自民党をぶっ壊してしまった結果、自民党は以前のやり方をしなくなって、民主党の方がそれをした。

自民党が壊れた結果、代わりに民主党が自民党になったような。


「日本は政党を一つしか必要としない」というのも、以前にも書いてあったことだ。

なんで一つでいいか、っていうのは、「官僚」との絡みがあって、本書でのこのへんの考察がまた「うわぁ」と思うすごい代物(というか、哀しい現実というか)なんだけれども、全部言っちゃうとつまらないから、気になる人は本書を読みましょう。

小沢さんの分析や、「民主党ってなんなんだ?」という分析は、本当に面白いよ。

「じゃあ次の選挙で民主党が勝っても結局何も変わらないの?」という気もしてくるけど。

うーん、そりゃ何かは変わるんだろうけど、でもまだまだ日本に「ちゃんとした政治」はないっていうか……。「二大政党制」というものとはやっぱり違うというか。


小沢さんに負けて辞任した安倍さんの話もちゃんとある。

「プランBのない男」とか、「彼はハ行の濁音で始まるある二文字で言えちゃう」とか。

笑えるけど、私もそんな総理大臣を生み出した日本国民の一人なわけですし。

なんというか、読んでるとホント、「あ~あ」の連続です。

でも「なんとなく」しかわからなかったことや、ただ単に「落ち着かない」「気持ち悪い」だったことが、橋本さんの考察を読むことで自分でも「ああかな」「こうかな」と具体的に言葉にすることができていくので、とても楽しい。

編集部が、「総選挙に間に合うように出そう」と思ったわけでもないのだろうけど(福田さんの辞任より前に出版作業は始まったはずだし)、この時期こうして「参議院選で民主が勝ってからの一連の流れ」をおさらいさせてもらえるのは、ほんとにありがたいです。

(しかし「福田辞任」からの流れについての橋本さんの考察も、やっぱり読みたいよなぁ。買うしかないのか、『広告批評』)

( ↑ と、こういうことを書いた後で内田樹さんのblogを見たら、橋本さんが批評家たちから無視されているという話で、「それについて『広告批評』に長い評論を書いたから読んでね」とあった。ああ、やっぱり買うしかないか、『広告批評』)