(『銀河帝国の興亡』これまでの感想はこちら→1巻2巻3巻

3巻刊行後、30年の時を経て発表された4作目。前3作もヒューゴー賞を受賞していますが、この4冊目でもまたヒューゴー賞を受けたという、「すごいなぁ」としかいいようのない作品です。

3冊目までは創元推理文庫版を読んだのですが、4作目以降はハヤカワからしか出ていないようで、図書館でハードカバーの方を借りてきました。



文庫にもなっているのですが、Amazonさんには上巻しかないもよう。ヒューゴー賞受賞の古典的名作でも、なかなか書店で手に入らないものですね……。


3巻の最後で第一ファウンデーションが第二ファウンデーションをやっつけた!と思い込んでから120年、第一ファウンデーションの若手議員トレヴァイズは「第二ファウンデーションは滅んでいない!」と主張し、危険分子として追放されることになります。

第一ファウンデーションのあるターミナス(創元推理版ではテルミナスと訳されていました)の市長、ブラノはトレヴァイズに歴史学者ペロラットを組ませ、最新式の宇宙船を与えて、「避雷針」として宇宙に放り出すのです。

滅んではいないかもしれない第二ファウンデーション。もしもまだ彼らが存続しているなら、きっとトレヴァイズに目をつけるだろう……。

市長の思惑通り、第二ファウンデーションはトレヴァイズという餌に食いつき、トレヴァイズとペロラットの旅、それを追いかける第二ファウンデーションのジェンディバルの旅、そしてさらに「私も行くわ!」と自ら乗り込んでいく市長ブラノと、三者三様のドラマが絡み合い、怒濤のようにクライマックスへとなだれ込んでいきます。

うん。

文庫にすると二冊分、単行本では細かい活字二段組の430ページという大ボリュームなのですが、読み始めると止まらない面白さでした。

これまでの3冊も面白かったけど、それはなんか「ふむふむ、なるほど」という感じの、少し距離を置いて古典SFを楽しむ感じだったんですよね。それが今回は素直に「どうなるの!?」とお話に入り込んでどんどんページを繰ってしまう。

これまでの3巻はこの4巻目の「どかーん!」のための布石だったのか、と思うほど。

まず、血気盛んな若いトレヴァイズと、引きこもって生きてきた歴史学者のペロラットという組みあわせがとてもいい。アシモフさん、凸凹コンビ作るのうまいです。

ペロラットは実は「地球」を探し求めているんですよね。

長く繁栄を築いた銀河帝国が衰退し、第一ファウンデーションによる「第二帝国への途」もほぼ半世紀、人類の故郷である「地球」のことは忘れ去られています。そもそも宇宙帝国に散らばる「人類」が単一種であること、ただ一つの星を祖とすることも忘れられてしまっているような……。

ペロラットは「ただ一つの故郷の星」地球がどんな世界だったのか、なぜその星だけに知的生命体が――宇宙に広がるほどの文明を持ったものが――生まれたのか、それを知りたいとずっと研究してきた。

「しかし、そのある特定の世界はなぜ、他の世界からそんなに違ったものになったんだろう?」「それはどんな条件によって、ユニークなものになったんだろう?」 (P114)

その好奇心、学問的興味はしごく当たり前のものに思えるのに、銀河帝国世界では

ただ、これに興味を持つ生物学者にも、全然出会わないということが残念でねぇ。 (P115)

どうも「地球」のことは意図的に資料から消されているようではあるのですが、だからといって人の好奇心まで失われてしまうものなのか、ペロラットの静かな嘆きがなんとも寂しいです。ペロラット、「人に興味を持たせられないのは自分の説明が下手だから」とさえ思ってたりするんだから。

最初は水と油に思えたペロラットとトレヴァイズが互いに信頼し合っていくのが微笑ましいし、最後には「ペロラットの幸せが保証されないうちは…!」とカッカしちゃうトレヴァイズが可愛いです。

一方、第二ファウンデーションの次期第一発言者の座を狙うジェンディバルの相棒は、「ヘイム人」と蔑まれているトランターの農民出身の女、ノヴィ。

第二ファウンデーションの、それも「発言者」となれば人の心をほぼ自在に操る能力を持っているのですが、ジェンディバルはノヴィの無垢で滑らかな精神構造にすっかり心を奪われ、彼女が自分に向ける尊敬の念にもウキウキしちゃいます。

トレヴァイズを追う旅の途中でノヴィを公私ともに「欠くべからざるパートナー」としていくジェンディバル。一方、ターミナス市長はその右腕、公安局長コデルと大人の腹の探り合い。信頼の置ける部下であってもすべては知らしめない、狸市長。

ほんと、それぞれの組みあわせがよくできてて面白いし、もしや「これこそが地球か?」と思われる「ゲイア」の設定にもワクワク。

その上に生きとし生けるものだけでなく、惑星そのものまで含めて「群意識」を形作る生命体「ゲイア」。私は「私」であると同時に「ゲイア」でもある。

「わたしの意識は、個々のどの細胞の意識よりも、はるかに進んでいる――信じられないほど進んでいる。しかし、われわれがより高いレベルの、もっとずっと偉大な群意識の一部であるという事実は、われわれを細胞のレベルに引き下げることにはならないのよ」 (P360)

「すべての意識が繋がっているんなら他のものを食べられないんじゃ?」というペロラットのもっともな質問に対して

「でもしかし、どんなものも遊びや娯楽で殺すことはないし、不必要な苦痛を与えて殺すこともしない。なぜならゲイア人はだれも、絶対必要な物しか食べないから」 (P364)

とゲイア側が答えるのも素敵。

「地球」がどんな星か、と考える中で

「地表でかい? あり得ない。核爆発を兵器として使うほど愚かな社会があったなんて記録は、銀河系の歴史には存在しないよ。そんなことしたら絶対に生き残れないもの」 (P255)

とペロラットに言わせるアシモフさん。この作品が刊行されたのは1982年。モスクワオリンピックボイコットが1980年のことで……東西冷戦まっただ中に書かれた作品ですよね。それから35年ほどが経った今も、未だ核兵器廃絶はならず……。

心理歴史学者ハリ・セルダンによって敷かれたレール、二つのファウンデーション。一方はこのまま発展していけば軍事帝国になってしまうかもしれず、一方は「心を操り」、「計算」だけですべてをコントロールしていこうとする「生ける屍」に。

セルダン・プランはどちらが勝つことを予見したのだろう? 相互補完によって新しい帝国を築くはずが、ミュールの出現によりズレていってしまった未来。

人類が目指すべき「よりよき未来」はどんな世界であるべきなのか。

アシモフさん自身が模索なさっているお話なのかもしれません。

だから……なのかどうなのか、この作品のエンドマークは「終わり」とか「完」ではなく、「とりあえず終り」となっています。うーん、心憎い!


そして、「地球」と同様、「ロボット」のことも「伝説」になってしまっているんですよね。「地球」を研究するため神話や資料にたくさん当たっているはずのペロラットでさえ、ロボットのことを知らない。

「なぜ、人の形を?」ペロラットは驚きを素直に表して、いった。
「よく分かりません。機械としては驚くほど非能率的な形態ですね、たしかに」 (P264)

あはは。あはははは。

ロボットが消えてしまった経緯として、

ロボットはまったく親切でした。かれらの労働は明らかに人情味にあふれていて、まったく皆のためを思ってなされた――どういうわけか、それがかえって耐えられないものになったのです。 (P372)

と語られているのがまた。

自分達が生み出したものが、自分達より優れていて、あまつさえ自分達を保護しようとかかる。プライドの高い人類がロボットを敵視するようになるのもむべなるかな。

昨日見た『仮面ライダーハート』のことを思い出したりもします。「人の心こそは特別だ!」と言いたくなる人類……。


旅を続けるらしいトレヴァイズの行く手には何が待っているのか……!

5巻目の展開が楽しみです。


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