Kindle版原著


ジュナの冒険シリーズ8作目。邦訳が出ているものとしてはシリーズ最終巻になります。これでジュナともお別れかと思うと……寂しい。(これまでの巻の感想は記事末の【関連記事】をご覧下さい)



ずーっとおおむね夏の話が続いて、7作目で初めて「クリスマス休暇」になり、この8作目は「四月の第二週の終わり」です。初めての春!!!

1作目で12歳だったとしても、もう15歳ぐらいになってそうですね、ジュナ。

6作目までエデンボロに住んでいた親友トミーがいきなりフロリダに引っ越し、そのトミーを訪ねて行った先で事件に巻き込まれたのが7作目『黄色い猫の秘密』でした。行く先々で同年代の少年と仲よくなれるジュナですが、たった12軒しか家のないエデンボロでトミーに去られてはさぞ寂しかろう、今回はまたどこかへ出かけるのかなと思っていたら。

フロリダで仲よくなったボビー・ヘリックが逆にエデンボロを訪ねてくるという。

そう来たか。

ボビーってボウリング場でアルバイトしてた子かなぁ。図書館の蔵書の都合で7作目を最初に読んだので、ちょっと細かいことを忘れてしまっていますが。

クリスマスに事件に巻き込まれた後の春休みですから、おばさんはジュナにしっかり釘を刺します。

「フロリダへ行っているあいだ、あんたがたはトミー・ウィリアムズといっしょに騒ぎまわっていて、一時は、どうなることかと思ったわ。(中略)ボビーがきているあいだは、おとなしくしていなければいけないわ。わかったかい」 (P15)

それに答えてジュナ。

「こんなエデンボロみたいなケチなところで、ドルフィン海岸みたいな事件が起こるはずはないじゃないか!」 (P15)

うん、「ケチなところ」と言ってはあれだけど、12軒しかない小さな田舎の村、住人はみんな顔見知りでしょうし、まぁそうそう大事件なんか起こらないと思いますよね。

でも。

もちろんそこにジュナがいる限り、事件は起こるのです。

「にっき」と「にくずく」(原文ママ)を切らしたアニーおばさん、キャンディおばさんの家に借りに行くことにします。このキャンディおばさんの家はエデンボロの集落ではなく、少し離れたところにあるようで、「ぼく、キャンディさんの家へ行くのは、はじめてだよ」(P16)とジュナは言っています。

おばさんのひいおじいさんが捕鯨船の船長だったらしく、そのビークマン船長が残した航海日誌の謎が今回の事件。

「たくさんの真珠を持ち帰った」という噂もあったビークマン船長、その船長が昔住んでいた家を博物館にしようと企んでいる薬局の主人ペリー。ペリーに雇われ博物館に飾る品物(山猫やチョウザメの剥製といった船長のコレクション)を整理している謎の男クルップ。

クルップが何かを探しているらしいと聞いたジュナは、その何かが「真珠」だと考え、航海日誌の文章と、船長が死の間際に言い残した「青いにしんをあげてみろ!」という言葉を手がかりに推理を働かせていきます。

図書館で調べたり、地元の小さな新聞社で古い記事を調べたり、はたまたファーロングさんに電話して調べてもらったり。

ホントにまぁ、いっちょまえの探偵さんです。

本職の探偵が見つけられなかったものをあっさり見つけてしまうんですからねぇ。

でもジュナはエラリー同様途中では推理を人に話さない。「話せば君に危険が及ぶかもしれない」と言ってボビーにも話しません。

ボビーとしては、ジュナが何ひとつうちあけてくれず、こちらは仲間のつもりなのに、子供あつかいされるのが、くやしかったのだ。 (P129)

アニーおばさんに「ボビーのいる間はおとなしくしていなくちゃ」と最初に釘を刺されたこともあるとはいえ、今回は読んでいるこちらもイライラさせるぐらいの秘密主義。何かわかったんなら早く教えてよ~~~~~。

ボビーに話しておけばむしろ最後の危険もなかったかもしれないのに。いつも一人で行動して、一人で危険に巻き込まれて、間一髪なんですからねぇ。

今回はちゃんとファーロングさんに「キャノンボールさんと一緒にこっちへ来てくれ」とお願いしていて、「二人が来てくれたら全部話して二人に任せよう」と一応考えてはいるんだけど。

二人と合流する前に怪しい男が動き出すから困るんだよね。ってゆーか怪しい男が動いても一人で追っかけちゃダメだってば。せめて誰かに伝言を頼んでから出発しないと。

その、ファーロングさん。ジュナのよき理解者であり、頼れる相棒なのですが。

ファーロングさんの勤めている新聞社がフィラデルフィアにあるってことが、初めてわかりました。1冊目に出てきているのかもしれませんが、何せ1冊目の邦訳が図書館にないので。

フィラデルフィアと言われても全然場所がわかりませんが、Googleさんで見てみたところ、ニューヨークのちょっと南? トミーが引っ越していったフロリダはずーっと南の端っこですが、ジュナもボビーも一人でフィラデルフィア~フロリダ間を旅してるの!?

今GoogleMapさんで経路検索したら車で「15時間44分、1,064マイル」って出ました。意外と近い???

1,064マイル=1712.342㎞だそうです(これもGoogleさんに計算してもらった)。

札幌と東京が直線距離で1000㎞ぐらいってことはえーっと、札幌から岡山ぐらいまで行けちゃう感じ? 札幌から福岡まで車で走ると2058㎞だって今Googleさんが。

どうでもいいですね。すいません。

フィラデルフィアとエデンボロがどれだけ離れてるかわかりませんが、ともかくエデンボロの近くにはにしんののぼってくる河があるのです。つまり、けっこう海に近いのかな、と思ったのですが。

「ここからじゃ海が遠すぎるんじゃないかな。鯨をとる人たちは、たいていナンタケットのような海岸に住んでるんじゃないのかい?」
「そうだ、普通はな。だが、この町がノース河の岸にあること、そしてノース河は直接、大西洋にそそいでいることを忘れちゃいけない。(中略)ここから三十マイルほど下ると、ノースボートという港がある」
 (P33)

というジュナとブーツさんの会話があります。

で、にしんがたくさん上がってくるので地元の住民総出でまるでお祭りのようににしんを獲る「網漁の日」というのがあって、ブーツさんに網を作ってもらったジュナとボビーは大喜びでその日を待つのですが……。

今回もこれまでと同じようににしん漁のことが詳しく出てきて、面白いです。

あと、ジュナがファーロングさんに電話をかけるのが交換手を介してだったり、そもそもエデンボロにはピンドラーさんの家(お店)にしか電話がなかったり、時代を感じます。盗み聞きされないように気を遣ったり、いざという時にすぐファーロングさんと連絡が取れなかったりするの、ケータイが普及した今では考えにくいですよね。

わざわざ電話を借りに行ったことで、ジュナは「また何か調べてるな」と敵に感づかれてしまうし。

何しろ有名人ですから、悪党にとっては「あいつ俺のこと調べてるんじゃ」と気が気じゃないわけです。今回の「青いにしんの秘密」を解決したことでまた大々的に新聞に載っちゃったので、これからますます仕事がやりにくくなりますよ、ジュナ。


それにしても。

名探偵エラリーではタイトルに国の名を冠した「国名シリーズ」、そしてこのジュブナイルミステリでは色と動物をタイトルに持ってきてシリーズを作り、どの巻でも子ども達の興味をそそる遊びやイベントをうまく謎解きにからめ、最後は決まってみんなでご馳走を食べているところで終わるという、いやぁ、エラリー・クイーンさんってほんとすごい。

「いまぼくは熊の尻尾をつかまえて手を放すことができずにいるんです」
「なぜ両手をポケットのなかへしまっておかなかったんだ?」
 (P153)

なんてやりとりも粋だし(ジュナとソッカーさんの会話)。

ハヤカワさん、これ復刊すべきですよ。もったいないですよ。そして9作目もせっかく訳したんだから文庫本にしましょうよ、ね?
(9作目『紫の鳥の秘密』はミステリマガジン誌に邦訳が掲載されています)


最後に、この8冊目の訳者は大久保康雄さん。ホームズなど他にもミステリを訳してらっしゃる翻訳家さんであり、「戦後、絶版となっていた『風と共に去りぬ』を復刊してベストセラーとなり、ヘンリー・ミラーの主たる作品、ナボコフ『ロリータ』など、現代米文学を中心に多くの訳書がある。」方だそうです。(Wikipediaより)

日本の職業翻訳家の草分けでいらっしゃるということで、読みやすい訳でしたが一箇所またジュナが「少しも赤くないぜ!」って「ぜ!」を使ってて。

気になっちゃいました。


ジュナシリーズ、終わっちゃうの寂しいので1作目『黒い犬の秘密』の原著にチャレンジ中です。読み終わるまで1年ぐらいかかりそうですが……いずれまた、感想を書きます。たぶん、きっと、挫折しなければ……。


【関連記事】

『金色の鷲の秘密(ジュナの冒険2)』/エラリー・クイーン

『赤いリスの秘密(ジュナの冒険4)』/エラリー・クイーン

『茶色い狐の秘密(ジュナの冒険5)』/エラリー・クイーン

『白い象の秘密(ジュナの冒険6)』/エラリー・クイーン

『黄色い猫の秘密(ジュナの冒険7)』/エラリー・クイーン(村岡花子訳)

Kindleで『黒い犬の秘密』を読んでいます(途中経過)

『幽霊屋敷と消えたオウム』/エラリー・クイーン

『黒い犬と逃げた銀行強盗』/エラリー・クイーン