さぁさぁさぁさぁ、ついに24巻まで来てしまいましたよ、『ルパン全集』。ルパンの活躍がもう読めなくなると思うと……うう、また1巻から読み返そうかと思うぐらい寂しい。

24巻『カリオストロの復讐』は、もちろん第15巻『カリオストロ伯爵夫人』の後日譚。

まだ「ルパン」になる前のラウール=ダンドレジーと愛憎劇を繰り広げた女盗賊ジョゼフィーヌ=バルサモ。結局は自分を捨てクラリスを選んだラウールに復讐を誓い、クラリスとラウールとの間に生まれた子どもを誘拐する。

もちろん、行方不明になった子どもをさらったのが彼女だという証拠は何もなかった。でもあのルパンが、まだ若造だったとしてもあのルパンが八方手を尽くしてその行方を突き止めることができない、そんな仕事をしおおせられるのは……。

出産してすぐ、クラリスは亡くなってしまっている。いつか子どものことも遠い記憶になってしまっていただろうルパンのもとに、四半世紀の時を経て、カリオストロ伯爵夫人の亡霊が現れる――!

と言っても。

ジョゼフィーヌ=バルサモ自身は登場しません。「ルパン自身による前書き」という部分で、それははっきりと言明されています。読者に「なんだよ、出てこなかったじゃないか!」と文句を言われるのがルブランも嫌だったのでしょうか。

とはいえこれは、カリオストロ伯爵夫人、ジョゼフィーヌ=バルサモの面影が、なんとも悲劇的な影を落としている物語である。過ぎた恋がはげしければはげしいほど憎しみは深く、復讐をつつむ闇もまた、黒々として濃い。そのような物語であれば、どうして題名にカリオストロの名を冠せずにいられよう。 (P10)

この前書きはなかなか面白くて、

もちろん、自分が特別に感じやすいことは否定しない。街の角ごとに、一目惚れを拾ってきてしまうような男ではある。ご婦人がたには、たいてい手厚く寛大な態度でお迎えいただいたこともたしかだ。 (P8)

なんてことも言ってます。うぷぷ。

物語の発端は、偶然ルパンが見かけた紳士。大金を持っている紳士がとある屋敷にその金を隠したことを確信したルパンは、ちょうど売りに出ていたすぐそばの別荘を買い取り、知人に紹介された若い建築技師フェリシアンにその改装を頼む。

機が熟し、いよいよルパンが仕事にかかろうとした時、紳士の姪エリザベートが殺され、隠された大金も盗まれるという事件が起こる。夜にはエリザベートの婚約者ジェロームが襲われ、シモンという名の若者も瀕死の重傷を負って発見。フェリシアンに疑いがかかり、ルパンのもとに乗り込んできた謎の美女フォスチーヌは「あんたがやったんでしょ!あんたはアルセーヌ=ルパンよ!」と叫ぶ。

事件の謎解きにかかったルパンはほどなく、フェリシアンが自分の息子である可能性を知る。

蘇る過去の亡霊。「必ず復讐してやる!」と誓って去ったカリオストロ伯爵夫人の命令書。

子どもを盗人に、できれば殺人者にしたて、のちに父親と敵対させよ。 (P160)

果たしてフェリシアンは本当にルパンの子どもなのか。ジョゼフィーヌ=バルサモの怖ろしい命令通り、殺人者に育ってしまったのか。エリザベートを殺し、ジェロームやシモンを襲った犯人は一体……。

相変わらず息もつかせぬ展開で一気に読んでしまいましたが、今回ルパンはかなり翻弄され、自力で事件は解決できないんですね。フェリシアン、フォスチーヌ、そしてエリザベートの妹ロランドはルパンに心を開いてくれず、謎の核心に迫りきることができない。

まだ「息子かもしれない」とわかる前のセリフですが、せっかく助けてやろうと思っているのにフェリシアンにだんまりを決め込まれたルパン、こんなことを言います。

「きみほどの年になったら、こんどのような苦境にあっても、自力できりぬけられなくてはいけないものな。なにか悪事をしたというのなら、しかたない。もし無実なら、きみの人生のうち、いつか償われるときがあるさ。」 (P68)

「息子かも」と思うようになってからも、ルパンはフェリシアンの人物像、本心がつかめずいらいらします。そして、「息子だったからといって距離を縮めようとも思わないな」と。

フォスチーヌと仲良くしてるフェリシアンを見て激しい嫉妬に駆られたり、ルパンはあくまで「男」で、「親」という立場にはなかなかなれないみたい。ホントに街の角ごとに一目惚れ拾っちゃうんだからねぇ(笑)。

今作には、ルパンの出てこないルパン全集、23巻『赤い数珠』での活躍が記憶に新しいルースラン予審判事も登場します。

『赤い数珠』の登場人物だったボワジュネとルパンが友達、なんていう言及も。

ルースラン氏は今回も大変いい味出してくれてて、しかもルパンをして「たいした男だ」と言わしめるだけの頭脳と懐を持っています。

いやホント、ルースラン氏っていい人なのよねぇ。うん、好きだわ。

最後、事件の真相をルパンから聞いたあと、ルースラン氏は思う。

(こんなに上品なのに、性根はあくまでも泥棒なんだ。この男は一生、人を救い続けるだろう。だが一方で、他人の財布を失敬する機会があれば、けっして自分をおさえないだろう。帰るときには、握手をすべきかな) (P299)

そんなルースラン氏の内心の思いを感じながら、ルパンは話す。

「私の望みはですね、死んだとき、〈あれは、いい男だったな……まあ、悪事も働いたんだろうが、いい男だったよ〉といってもらうことなんです。」 (P299)

ルースラン氏はルパンに握手を求め去っていく。いやぁ、大人ですわ。

うん、ルパンシリーズの面白さっていうのは、こういう「大人の粋さ」が堪能できるところだよねぇ。




ついに、最終巻!

ついに、ルパンともお別れ!!!

うぇーん。

そんな記念すべき最後の冒険なのですが、あまり面白くなかった……。

アメリカとフランスを結ぶ航路、オラース=ベルモンという変名、待ち構えるガニマール刑事、などルパンが初登場したお話『ルパン、逮捕される』を思わせる演出は心憎いんだけど、事件そのものはなんか、微妙。

ルパンがこれまでにため込んだ数十億という金を横取りしようと企む秘密結社。その結社と関わりのあるアメリカ人女性パトリシアを守りつつ、ルパンは自分の財産を守ることができるのか――という話なんだけど。

なんかルパンがかなりバカになってる気がする。なんか、翻弄されちゃって。

いや、もちろん最後には勝つし、今までだって「無敵」といいながら途中は翻弄されまくりっていう展開が多かったんだけど。

なんかこう、ルパンの知力を堪能する部分がなかったなぁ、って。色ボケしてるシーンばかり多くて…。

いや、もちろんそれだって何も今に始まったことじゃないし、美女との恋の駆け引きはルパンシリーズの魅力の一つだってわかってはいる。でも今回ルパンは自分で言ってるんだよ。

「それに、どんな女ももうたくさんだ!色恋もたくさん!恋の征服もたくさん!小さな青い花もセレナーデもたくさん!月の光もうんざり!なにもかも、うんざりだ!ああいうものは、みんなやりきれない!」 (P78)

何が「どんな女ももうたくさん」よ。その舌の根も乾かぬうちにパトリシアにメロメロになってんじゃん。

そもそも『虎の牙』でめでたく結婚した彼女、フロランスはどうしたの???

年譜によると『虎の牙』がルパン45歳頃、この『最後の冒険』が50歳頃。まだフロランスと結婚してたった5年。そりゃああのルパンが一人の女性だけといつまでも仲むつまじくおしどり夫婦やってるとは思いませんけど、でもフロランスのフの字も見えなくて。ビクトワールと二人暮らしになっちゃってて。

『カリオストロの復讐』も今作とそう違わない時期の話だけど、フロランスの影はまるでなかった。そしてルパンは当たり前のように謎の美女フォスチーヌに熱を上げとった。

さっさと別れちゃったのかなぁ。ああフロランスフロランス。

50になっても落ち着くどころか、のルパン。ビクトワールが眠っている彼の寝顔をうっとり見ながら「なんて若く見えるんだろう、もう50まぢかだなんて信じられない」と言うと、がばと飛び起き憤慨する。

「もうおれは三十もとっくにすぎている……それがわかってるくせに、なぜくだらん数字なんかならべておれを傷つけるんだ?」 (P77)

年を気にしているらしい。そして「三十」からあとは数えたくないらしい。私といっしょね、ルパン(笑)。

しかしルパンが50歳ならビクトワールは一体何歳なんだろう? 乳母として子どもの頃からルパンの面倒を見てきたビクトワール。イメージとして割と最初から年配の女性だったんだけど、実はあの頃はまだ若かったのかしら。でないともう90歳とかになっちゃうよね。

ルパンに「これこれのことをするように。俺が連れて行く人間を守ってやるように」と指示されたビクトワール、答えて曰く。

「わかったよ。じゃ、さようなら。あんた、うまくやんなさいよ。いいえ、注意も質問もお説教もいらないよ。わたしゃ、もう、いのちをかけちまってるんだからね。それは、あんたもよく知ってるだろ!じゃあね!」 (P139)

さすが伊達に50年もルパンの乳母やってない。ビクトワールかっけー!

『バーネット探偵社』他でいじられ役だったベシュも出てきますが、ほとんど名前だけ。ガニマールもそう。

ガニマールって、全集の後半まったく出てこないからすっかり忘れてた。銭形警部ほどにはルパンの人生を彩っていない。

この第25巻には長編(というか、他の作品に比べると中編)『ルパン最後の事件』の他に、短編が二つ収録されています。

『山羊皮服を着た男』は「あれ、これって『モルグ街の殺人』じゃ?」と思ったらちゃんと最後にエドガー・アラン・ポーの名前が出て来て、ルパンが心憎いセリフを吐きます。

『エメラルドの指輪』の方は……なんかよくわかんなかった。女性の心理がよくわからない。んんん?


というわけで、最終巻なのになんか消化不良。「終わったぁ、ルパン万歳!」と叫べない。こうなったらもう一度最初に戻って……。

うん、実は今回「全集読破!」を掲げながら、最初の3冊は飛ばしちゃってるし、4冊目の『奇巌城』も集英社文庫版で読んでるから、1冊目から4冊目までは未読。

まだまだルパンを楽しめる!?