ルパンに乾杯!
『バール・イ・ヴァ荘』『二つの微笑をもつ女』/モーリス・ルブラン
ルパン全集もいよいよ20巻目。まさかのみたびベシュ登場です!
『バーネット探偵社』でルパン扮するジム=バーネットにいいように遊ばれていたベシュ刑事、『謎の家』でも活躍(?)し、さらにこの『バール・イ・ヴァ荘』でも。
全集19巻の『ジェリコ公爵』は実はルパン作品ではないから、ベシュ刑事は3作連続で登場しているんですね。ルブランはよほどこのキャラクターが気に入っていたのでしょうか。
『謎の家』から2年も経っていない、という設定。
ジム=バーネットでもなくジャン=デンヌリでもなく、ラウール=ダブナックと名乗っているルパンのもとに謎の美女カトリーヌが訪ねてくる。と同時にベシュから電話がかかってきて、最初ルパンは「あんたのことなんか知らない」と言うのだけど、ベシュの方は「おまえがルパンだってことはわかってるんだ」と答えるのみならず、なぜかベシュはルパンのアパルトマンの鍵まで持っている!
そのベシュの鍵をこっそり盗んで、カトリーヌはルパン=ラウールの部屋を訪れたのですね。
『謎の家』事件の後ルパンとベシュは会っていなかったようなのに、変名や居場所を知っているのみならず鍵持ってるってどーゆーこと? ベシュ、ルパンのストーカー!?(笑)
「夜中にいきなり美人が部屋の中にいる」という演出のためにベシュが鍵を持たざるをえなかったのかな、と思いますが、ともあれ今回もどんどんサクサクと読み進んじゃいました♪
カトリーヌとその姉ベルトランドが祖父から相続したバール・イ・ヴァ荘。
敷地内の三本のヤナギがなぜか植え替えられていたり、かつて屋敷で働いていた婆さんに「殺されるよ」と警告されたり、怖くなってカトリーヌがルパンのもとを訪れたあと、ベルトランドの夫が殺され、たまたまその地に滞在していたベシュとともにルパンが謎解きにとりかかる。
祖父の遺した遺産をめぐる陰謀、そしてその「遺産」の正体は――。
もちろんルパンは美人のカトリーヌに惚れ、その姉のベルトランドにも惚れ、そしてもちろん美人姉妹二人の方もルパンに心を奪われてしまい。
実の姉妹と三角関係とかどーすんの、ルパン。どーもしないで二人とも好き♪三人で楽しく過ごそう♪などと思っていたルパンは事件解決後、あっさり二人に去られてしまいます。「あなたがどっちも選べないなら、私たちはあなたのもとを去るしかありません」。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
日本には君にぴったりなことわざがあるよ、ルパン。
「でも、ほんとうに人を愛するというのは、そういうものではありません…(中略)わたしたちは、虚勢も嫉妬心もなしに、あなたの決断を待っていた。でも、いまでは、決断なんてないことを、わたしたちは知っています。あなたはいつまでも、わたしたちを同じように愛することでしょう。だから、わたしたちの決断をお伝えしにきたんです。あなたのほうが決断をくだすことができなかったんですから」 (P289)
女はそれを我慢できないんだよ。「二人とも同じくらい愛してる」なんていう、たぶん男にとっては変でもなんでもないことを。
「わたしを愛してくださるなら、ベルトランドより愛してくれなくてはいけないのに、そうではないんですから」 (P290)
「愛」っていうのは厄介なものだね。たった一人、自分だけをと望む。
まぁ男も最近はそれを我慢できなくて恋人のケータイから男性のメルアドを勝手に全部消すとかやっちゃうみたいだけど、でも相手にはそれを要求しながら自分は別に一途じゃないようなところが男にはありませんか…? どっちもどっちなのかな。
ともあれ二人に去られ、ベシュに八つ当たりするルパン。自業自得やーん(笑) 可哀想なベシュ。
でもこんなラスト、たまにはいいです。ルブランさんホントうまい。
ボートは音もなく川面をすべった。こまかく動くオールから、水滴が落ち、涼しげなささやきを奏でている。星空からぼんやりした光がそそがれていたが、地上の霧のあいだから、いつのまにか月がのぼって、すこしずつ明るさをましていた。 (P191)
トリックや冒険だけでなく、ルブランさんってこういう描写もうまくて素敵なのよね♪
ベシュのルパンに対する複雑な、反発しながらも惹かれているところとか。
「そして、きみが登場するわけか!」と、ベシュが、ラウールに話しかけるときにときどきみせる、絶対的といってよいほどの感嘆の口調でつぶやいた。 (P277)
ベシュとルパンのこんなやりとりも。
ベシュ「ほかになにが必要だったというんだ?」
ルパン「たいしたものじゃないけどね」
ベシュ「いったい、なんだ?」
ルパン「天才さ」 (p285)
だから好きよ、ルパン♪
うーん、こちらはそれほど面白くなかったなぁ。
『ルパン』全集ずっと読んできて、初めて「読むのめんどくさい」と途中で思った(笑)。
それは図書館への返却期限が迫ってたこともあるし、最初に後ろの解説読んじゃってネタバレしてたこともあるし、またしてもルパンが女に惚れて仕事するだけだったこともある。
なぜその女が『二つの微笑をもつ』なのか、それも「え、これって実は二人いるってことなんじゃ?」と早い段階で推理できちゃったし。
ラウールことルパンのもとに突然現れた金髪の娘アントニーヌ。上の階の侯爵に用事があったのに、間違えて中二階のルパンの呼び鈴を押してしまった。愛くるしいその微笑に一発で惚れ込んじゃったルパン。
一方彼女を大泥棒グラン=ポールの愛人クララだと思って駅からつけてきたゴルジュレ刑事。もちろんルパンは彼女をゴルジュレの手から救ってあげる。
もともとルパンは侯爵の「失われた遺産」を調べるために中二階を借りていて、アントニーヌと侯爵の関係も気になるし夜中に侯爵の部屋へ忍び込む。そるとそこになんと当のアントニーヌも忍び込んできて――!
グラン=ポールの方も逃げた愛人クララを追っていて、そのグラン=ポールとクララをゴルジュレが追い、ルパンはクララ(アントニーヌ)にご執心。なので自然ルパンとゴルジュレも追いつ追われつ。侯爵の絡む15年前の「殺人事件」を背景に攻守入れ替わり立ち替わりの追跡劇。
最初にルパンの部屋に現れたアントニーヌの生き生きとした明るい微笑、クララの少し愁いを帯びた微笑。ゴルジュレもグラン=ポールも、そしてルパンもその二人を同一人物だと思ってるから、「二つの微笑をもつ謎めいた女」になってしまうんだけど。
別の女の子が二人いるんだよ、もちろん。
ルパンともあろう者が、そんな簡単なことに気がつかないなんて。
女の子の微笑に目がくらんでっからだよ!!!
ルパンはクララの方と長く過ごし、クララももちろんルパンに一目惚れしちゃってる。そして実はアントニーヌの方もルパンのことを……。どんだけモテるんですかねー、ほんま。
でもひどいんだよ、ルパン。最終的にルパンはクララと一緒にいるのに、「クララを愛するのはあなた(アントニーヌ)を愛しているからです」って。
それをわかっていたからこそクララはアントニーヌのふりをしたんだよね。同じ娘だと思わせようと。
最後までクララは「恋敵」アントニーヌのことを気にしているのに、ルパンは心の内で「アントニーヌ!アントニーヌ!」って。
いい加減この惚れっぽい浮気男には愛想が尽きました(笑)。
まぁいよいよあと4冊なんですけどね。愛想が尽きなくても終わっちゃうのだわ……。
解説でネタバレしちゃった殺人事件の真相、これはでもけっこう秀逸だよね。意外性というか、「そんなのあり?」というか。こういうネタも使っちゃうルブランさんはやっぱりさすが。
皆さんはぜひ解説を読まずにお楽しみください。
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