ルパン全集読破チャレンジ継続ちう。

9巻目、『オルヌカン城の謎』。

相変わらずの怒濤の展開、息もつかせぬスリリングで謎めいた、掴めそうで掴めない真相にハラハラドキドキ、頁を繰る手が止まらない。

……でも、あれ、これってルパン、出てこないの? この主役の男の人がルパンってことはどうにもあり得ないし、他にそれっぽい人出てこないし、あれ?

「もしかして“ルパン全集”じゃなくて“ルブラン全集”なのかなぁ。必ずしもルパン物だけじゃないのか、これ」と諦めかけた頃、いきなりルパンの名が!

♪疾風のように現れて~疾風のように去っていく~♪

2ページくらいの出番だった、ルパン。

びっくりした(笑)。

ほとんど大物俳優の友情特別主演(爆)。

こんだけの出番でもルパンシリーズにカウントされちゃうのねー。ルパンさんパネェ。

ルパン出てこなくても面白いというか、主役のポール君がルパンに負けず劣らず大胆不敵、度胸満点、八面六臂の大活躍。超人的です。その原動力は奥さんへの愛、ってところがおフランス♪

第一次世界大戦時のアルザス地方を舞台に繰り広げられるドイツとフランスの激しい戦い。

主人公ポール君は新婚の夜、奥さんエリザベートのお父さん所有のお城(この辺がまた、日本では考えられないシチュエーション)でエリザベートのお母さんの肖像画を見てびっくり仰天。なんとそこに描かれていたのは10数年前に父を殺した女だった!

エリザベートが幼い頃にお母さんは死んでしまっていて、彼女に母親の記憶はほとんどない。でもいきなり新婚の夜に「おまえの母が俺の父を殺した!」と新郎に告発されてしまったエリザベートはもちろん大ショック!

ポールだって大ショックで、二人は顔を合わせられない。

そうこうしてるうちに戦争が始まり、ほんとんどやけのポール君は喜んで軍隊に参加。エリザベートには「そこは危険だからどこどこまで避難するように」と伝言を残し、当然彼女はそれに従ったものと思っていたのに実は。

「ママの無実の証拠をつかむまでこの城を離れるわけにはいかないわ!」と留まっていた。

しかし国境に近いお城はドイツ軍に占拠され、ポール君の部隊が辿りついた時には「女主人と使用人は処刑された」と……。

エリザベートは本当に殺されてしまったのか?

肖像画だけでなく、今現在にもポールの周辺に現れる「母親そっくりの顔を持つ謎の人物」の正体は?

「おんなじ顔とかあり得なーい」「しかもその娘とうまい具合に結婚するとかありえなーい」とのっけから「そんなバナナ」全開なのですが、しかしその謎が解けそうで解けない、エリザベートも救えそうで救えない、ルブランお得意のジェットコースターのような展開。

2日で読んじゃいました。

まぁポールの父とエリザベートの父は友人だったらしく、ポールの父が殺された場所もお城の近くで、決して「全然無関係に出逢った二人なのに実は」というカップルでもないのですが。

しかし幕開きから「えええっ!?」でした。

第一次世界大戦がまだ現在進行形な時に書かれた作品なのでドイツ軍及びドイツ人に対する描写が容赦ないです。子どもが読んだら「ドイツ人はこんなにひどい奴らなのか!」って刷り込まれそう。

「哀しいけどこれ、戦争なのよね」……ドイツから見ればフランスが鬼畜だったのでしょうし、ルブランの過剰と思える筆も「戦時下」ではいたしかたのないことかと。

ちゃんとこんなセリフもあるのです。

「しかし、少尉どの、人間ってほんとうに残酷になるものですね!人を殺して笑うのですからね!笑ってもいいのだと思うのですからね!」 (P210)

これはポールに付き従うエリザベートの弟ベルナールがポールに向けて言う言葉で、「少尉どの」はポールのこと。エリザベートのことを想い、ドイツ兵をやっつけた時しか笑えなくなっている兄に向かって、特に皮肉でもなくこう言うのです。

ルパンの活躍を楽しみに頁を繰ると思いきり肩すかしですが(笑)、ルブランの筆はさすがで、「戦時下の文学」という側面からも興味深い作品です。



続く『金三角』もルパンは途中出場。しかし今回はさすがに「2ページ」ではなく、後半しっかりと出番があり、謎もルパンが解いてくれます。

またその登場の仕方がすごいというか、「うわー、そう来る?」って感じなんだよね。

主人公のペルバル大尉がセネガル人の部下に「俺一人で果たして戦えるんだろうか?」と愚痴をこぼす。「こんな事件を解決するためには、あらゆる能力を備えた例外的な人物が必要だよ。おまえ、そんな人間を知らないか?」

セネガル人の部下ヤ=ボンは顔の半分を戦争で吹っ飛ばされていて、「ウィ」か「ノン」しかしゃべれない。大尉は彼のことを信頼してはいるけど、でも難しい事柄に関して彼が何か解決策を提示してくれるとあてにしているわけではない。彼に向かって話してはいても、それはほとんど一人語りのような、自分の気を鎮め、考えを整理するためのものでしかない。

だから「おまえ、そういう天才的な人物を知らないか?」っていうのも「言葉のあや」みたいなもんだったのだけど。

ヤ=ボンは「ウィ」って言うんだな、これが。

そしてルパンの名を書くわけさ。

憎い演出だなぁ、ルブラン。

もちろんペルバル大尉はヤ=ボンがルパンを知っていて、しかも呼び出すことができるなんて信じてなくて、「あてにしないで待ってるよ」みたいな感じですっかり忘れちゃうんだけど、ルパンはもちろん「ここぞ!」という絶対絶命のピンチに登場して大尉を救ってくれる。

あまりにもできすぎ。でもそれが許されるのがルパン♪

ヤ=ボンはかつてアフリカでルパンの命を救ったことがあり、その返礼として「困ったことがあったら俺を呼べ。いつでも駆けつける」とルパンに言ってもらってたようなのよね。この辺の義理堅さも怪盗というより義賊っぽいルパンの魅力。

物語は、ペルバル大尉と、彼が恋する人妻コラリーとの不思議な因縁を軸に進みます。

傷病軍人のペルバルと、ボランティアで看護婦として働くコラリー。偶然出逢った二人は互いに憎からず思うものの、コラリーは人妻で、しかもその夫のエサレスはかなりの悪党。

金貨を独り占めにしようとしたエサレスは仲間に脅され、そのピンチは脱したものの結局死体で発見される。果たして彼を殺したのは誰か?そして三億フランもの金貨の行方は?

しかもペルバルとコラリーの出逢いは偶然ではなく、ペルバルの父とコラリーの母がかつて愛し合っていたことが判明。しかも二人は策略によって殺され、今再びその息子と娘も親とまったく同じ方法で殺されかける……。

親の代からの因縁といい、殺されかける場面での「愛の告白」といい、ホントにおフランスというか、むしろ日本の昼ドラのよう。いやー、ホントにねー。よくまぁルブランはこんなに「これでもか!」という展開を考えますな。

途中で事件の真相=犯人には気がついてしまったので、翻弄されるペルバル大尉がかなりウザかったです。いい加減気づけよーーー。

犯人の真相に比べれば、タイトルである「金三角=金貨の隠し場所」はわりと呆気なかった。ルパンがまんまと犯人を罠にはめ引導を渡すところがやはりこの作品の白眉ですね。

『オルヌカン城の謎』と同じく第一次世界大戦が背景にあり、ルブランは主人公ペルバル大尉に「祖国のために闘って手足を失ったんだ、何を恥じることがある!」というようなことを言わせています。彼自身はそれなりにお金持ちなようなので、その気になれば立派な義足も作れるけれど、「粗末な木の義足で我慢しなければならない兵士がいっぱいいるんだ」と言って業者を追い返す。

「なんだって、ほんものそっくりの義足だって!しかし、なぜそのようなものが必要なのかね?おそらく、世間の眼をだまし、ぼくが片足であることを気づかれないようにするためなのだろう。つまり、きみは、片足であるということは欠陥であり、フランスの将校であるぼくは、それをはずかしいことのように隠すべきである、と思っているのだ、そうだろう?」 (P50)

ルブランの筆に勇気づけられた兵士がきっとたくさんいたのでしょうね。