『異端の数0』が大変面白かったので、数学関連のドキュメンタリーをもう1冊手に取ってみました。

「新潮文庫の100冊」に入ってるぐらいだし、平成18年初版ですでに文庫が17刷、Amazonにも激賞の声がたくさん、ということで、「何を今さら。まだ読んでなかったの?」って感じなんですが。

評判通りの面白さでした。

「フェルマーの最終定理」、名前は聞いたことがあるし、「ついに証明された!」というニュースも、そういえば聞いたことある気がします。

でももちろん、それがどんな内容の「定理」なのかは、全然知りませんでした。



17世紀の数学者にして裁判官、ピエール・ド・フェルマーは「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」と書いたのでした。(このエピソードはそういえば聞いたことがあった)

なんともヤな奴ですね、フェルマーさん(笑)。

以来300年余り、この定理を証明しようと多くの数学者が挑戦し、敗北してきた。それが1994年、アンドリュー・ワイルズ氏によってついに証明される。「フェルマーの最終定理は真である」と。

ワイルズ氏の成し遂げた素晴らしい仕事を紹介するとともに、フェルマーの最終定理に至る数学の歴史、定理を証明しようとしてきた数学者達の戦いを実に巧みに織り交ぜ、数学に詳しくない人でも十分面白く読める、良質のドキュメンタリー。

うん、ホントに構成うまいよなぁ、サイモンさん。ワイルズ氏の証明の最初の講演から始まって、ワイルズ氏が「フェルマー」に出逢った時のこと、ピタゴラスに遡り、数学の基礎と面白さに関して読者に予習させた後、フェルマーの人生、「最終定理」の登場。ワイルズ氏の研究の足取りとリンクしながら紹介される数学者達の様々な挑戦。

そしてワイルズ氏が証明を完成させる緊迫の終盤。

ホントによくできてる。

最初の講演で発表した証明にはミスがあって、それを修正するのにワイルズ氏は1年以上苦しむことになるんだけども、最終的には「天才的な閃き」を得て、見事「フェルマーの最終定理を証明した人間」になる。

ワイルズ氏のこのドラマだけでもあまりにも劇的なんだけれども。

それ以前の数学者達のドラマも、本当に劇的ですごくわくわくするんだよね。

むしろ私は終盤よりも――つまりワイルズ氏の証明よりも、それ以前の人の話の方が楽しかった。

だってさすがに「フェルマーの最終定理」の最終的な証明は、もうさっぱり理解の外でわけわかめなんだもん。

サイモンさんは上手だから、素人にもなんとなくわかるように、数式ではなく普通の言葉で「こんな感じ」と説明してくれてるし、「証明の中身そのもの」がわかんなくたって、十分読み物として面白いんだけど。

でもどうせなら、数学部分も「なるほどぉ」と思いたい。

「完全数」の話とか、「無限の大きさ」に関する「ヒルベルトのホテル」と呼ばれるたとえ話とか、すごく面白いもん。

「完全数」というのは「約数の和がその数自身と同じになる数」のことで、たとえば

6の約数1,2,3  1+2+3=6
28の約数1,2,4,7,14  1+2+4+7+14=28

しかも完全数は常に連続した自然数の和として表すことができるそうで

1+2+3=6
1+2+3+4+5+6+7=28
1+2+3+4+……30+31=496

約数と足し算なら小学生で理解できる。小学校でこーゆーこと教えてあげればもっと「数」に興味を持てるんじゃないのかなぁ。

私、昔ジャポニカ学習帳に載ってた「1から100までを一瞬で計算しちゃった天才パスカル少年の話」、すごく印象に残ってるもん。「1から100までの下に100から1まで逆に並べて上下を足すと全部101で、それを100個足すと10100。これは1から100までを2回足したことになるから、10100を2で割って、答えは5050」ってヤツ。

ひょおおお、パスカル頭いいっ!!! 算数面白いっっっっっっっ!!!!!!

ま、私が好きだった「算数」はひたすら因数分解するとか、「ぴたっと答えが出る」もので、「証明」とかは大っ嫌いだったんだけどね。

なんで「算数」なのにだらだら文章書かなあかんねん(笑)。

世の中は割り切れないことばかりで、人生には「答え」なんかなくて、だから、ちゃんと考えさえすれば「答えが出る」算数が、私はとっても好きだったんだなぁ。

ワイルズ氏が「フェルマーの最終定理」に出逢ったのはなんと10歳の時で、出逢ってすぐに「証明してみよう!」と挑んだそうである。

……すごいな。

10歳で「これを証明してみせる!」と思って、そしてそれを成し遂げた。

私も10歳で「フェルマーの最終定理」を知っていたらねぇ。もしかしたら(笑)。

「数学は科学や技術に応用されているが、数学者を駆り立てているのは応用の魅力ではない。数学者を奮い立たせているのは発見の喜びなのである」 (P240)

というくだりがあるのだけど、算数が面白いのは(「数学」とは言いません。言えません(泣))ホントにあの、「わかった!」という瞬間。あーでもないこーでもないと試行錯誤した末に訪れる、「あ、そうか!」という閃き。

「エウレカ!」なんだよね。

……徹底的に「役に立たない」ことが好きなわたくしです(爆)。


「女が数学をやるなんて」という時代に頑張ったソフィー・ジェルマンの話、数学に天賦の才を持ちながら若くして決闘で死ぬというあまりにドラマティックな人生を生きたエヴァリスト・ガロア、そして「フェルマーの最終定理」の証明に多大な貢献をした「谷山=志村予想」の谷山豊と志村五郎。

決して長々と書いてあるわけじゃないんだけども、それぞれの人生、それを描くサイモン氏の筆致には心動かされます。

あー、やっぱり算数楽しい!