先日紹介した『よいこの君主論』とともに、「息子ちゃんにどうかな?」と思って書店で衝動買いした1冊です。

文庫なのに1000円以上して、「衝動買い」するにはかなり厳しい値段でしたが、相手が「本」になると太っ腹になる私でございます(笑)。しかしホントに高くなりましたね。これじゃあ単行本買うのとたいして変わらない。昔は文庫ならせいぜい500円ぐらいでしたよね? デフレデフレと騒がしいご時世、本の値段は下がらないなぁ。

さて。

なんで「息子ちゃんに」と思ったかというと、「名探偵は11歳」と帯に書いてあったから。息子ちゃんと同い年の女の子が主人公、しかも「化学・毒物大好き少女」と書いてある。

「CWAデビュー・ダガー受賞作」ということでもあるし、お話自体の面白さも期待できる。

うん、なかなか面白かった!

本屋さんで自分の目で選んで手に取った本が「当たり」だと、なんかすごい嬉しいよねー。「私の眼に狂いはない!」(笑)。

息子ちゃんも途中でやめることもなく、一気に読んでたので楽しんでくれたんじゃないかな。

舞台は1950年のイギリス。

化学・毒物大好きの11歳の少女フレーヴィアは、生後まもなく母を亡くし、今は世捨て人のようになっている父と、意地悪な姉2人との4人家族。家には住み込み庭師のドガーに、通いの家政婦マレットさんがいる。

なんとなく、「意地悪な姉2人」とか「お母さんがいない」とかいう家庭状況が、「ありきたりな設定」に思えなくもないんだけど。

そーゆー家庭状況じゃないと「ここまで逞しい11歳」には育たないだろう、という「理屈付け」なのかなぁ。フレーヴィアは11歳とは思えないぐらいしっかりしてて、行動力も抜群。化学好きで頭もよくて、本当に天晴れな少女なんだけど、「幸福な家庭」ではこーゆー子どもは育たないのか?と反論したくなってしまいます。

お父さんが娘達に冷たいというか、「どう接していいかわからないから接しない」になっているのは、当時の「ちょっとした家の当主」ならあたりまえの「在り方」だったのかもしれないけど。

そう、フレーヴィアは「バックショー荘」というかなりでかそうな「お屋敷」に住んでいる。「お屋敷」には大伯父さんが使っていたという立派な「化学実験室」もあって、物語の最後には「検死解剖の際(死後十数時間経っていても)毒物が検出できるかどうか」実際に自分で確かめてもいる。

フレーヴィアの「化学好き」は、あまりうるさくない程度に、それでいて事件の真相に迫るには十分に、うまく活用されている。

途中、父親がフレーヴィアにとうとうと事情を説明する部分は長すぎると思うし、ミステリーとして、「謎解き」として、「一級品」というのではないとも思うのだけど、フレーヴィアの行動力に引き込まれてどんどん頁を繰ってしまう。

終わりの方でフレーヴィアが絶体絶命のピンチに陥った時はほんとドキドキしたし(あの状況でもへこたれないフレーヴィアすごすぎ!)、エンディングはほんわかと、それでいて洒落ててうまい。

それになんか、舞台が1950年ということもあって、「昔懐かしい推理小説」の雰囲気が、なんともいい感じ。

「殺人」はあるけど、どこか牧歌的というか、ぎすぎすしていなくて「安心して読める」っていうのかな。11歳の少女の1人称で、行動は「自転車」。バックショー荘に電話はあるけど「よっぽどの緊急事態の時しか使っちゃダメ」と言われていて、車だってそうそうびゅんびゅん走ってない。ケータイもインターネットもない時代の、しかもちょっと田舎(英国の地名なんてまったくピンと来ないけど、お話の舞台は少なくともロンドンではない)。

なんか「こーゆー“推理小説”、昔よく読んでた。好きだった」って思った。

考えてみれば、『ホームズ』も『ルパン』も、まだ馬車が走ってるような時代のお話だし、私が子どもの頃よく読んでた「少年少女世界文学全集」とか、「世界の推理小説」みたいなシリーズも、生まれるずーっと前が舞台のお話。

雰囲気というか感触というか、物語の「匂い」というか、そーゆーのがなんか、とっても懐かしくてほっこりする作品だった。

読書好きな小学校高学年にも安心してお勧めできます。

息子ちゃんと同じくらいの年だった時、私、図書館の推理小説の棚読みあさってて、「少女探偵ジュディ」とか「少女探偵ナンシー」とかのシリーズもよく読んでたんだよねぇ。



ジュディは高校2年生、ナンシーは高校3年生らしいから(当時小学生の私にとってはずいぶんお姉さんだったんだなぁ。「少女じゃないじゃん!」と突っ込みたいぐらいに(笑))、フレーヴィアの11歳は破格の若さ。

「11歳でこんなことできるわけないだろ!」とつい言いたくなるけど、でも大人が思ってる以上に子どもだって色々考えているし、自分の11歳の頃を思い出すと、気持ち的にはもう「いっぱし」なつもりではあった(笑)。「子どもには無理」というのは大人の勝手な思い込みに過ぎないんだよね。

まぁ、今の日本の11歳はどうかなぁ、ってところはちょっとあるけど。

8歳で働かざるをえない子達とか、11歳・12歳で家族を養ったり、弟妹の面倒を見ている子ども達は世界にはたくさんいる。翻って現代日本の多くの子ども達はやっぱり恵まれていて、その分「しっかりする」機会を失っているような。

で、こんな素敵な11歳のヒロインを生み出したアラン・ブラッドリーさんはなんと70歳! 70歳の男性が11歳の女の子をこんなに生き生きと描き出してくれるなんて(しかも1人称で!)すごい。

デビュー・ダガー賞受賞ということで、これがデビュー作。私にもまだまだチャンスはあるぞ!と思わせてもらえますね(笑)。

この賞、冒頭の三千語とあらすじを応募すればよいらしく、受賞してから最後まで書いたのだそう。まだ最後まで書いてもいないのに賞をもらえるなんて、羨ましすぎます(爆)。

フレーヴィアシリーズは6冊まで構想され、現在2作目が刊行されているようです。創元推理文庫でも邦訳刊行予定とのこと。

フレーヴィアファンクラブなるサイト(英語)が立ち上がっているほど、魅力的な11歳の名探偵。

これからの活躍も楽しみです♪