橋本さんの新刊です。『宇宙を織りなすもの』下巻はちっとも読み進めませんが、橋本さんの本ならさくさく読める♪ まぁ新書ということで、分量も少ないですし。内容も非常に懇切丁寧というか、読みやすくて、「橋本さん、親切になったなぁ」ってしみじみ思ってしまいます。

タイトルだけ見ると、読書を推進する内容かな、と思いますが、9割方は「この不況の正体」の説明です。「本を読め」は最後にちょこっと出てくるだけ。

でもこの、「不況の正体」の説明がものすごーくわかりやすくて、「なるほどやっぱりね~」と思いました。

まぁ要するに、「100年に1度の危機」どころか、「産業革命以後の経済ってもんがとうとう行き止まりになってしまった、大転換点」なわけですよ、今回の「大不況」。

「もう景気が良くなるなんてことはない」ってことは、これまでの橋本さんの著作にも書かれてあったし、産業革命以後の経済の仕組みや歴史の流れなんかは『ぼくらの資本論』等でかなり以前に説明されているんですけど。

「このまんまで行くわけない」ってゆーのは、もうずいぶん前からわかっていたことなのにね。

GMも国有化で、アメリカの自動車産業はこれからどーなるのか、ですけど、この本の一節のタイトル。

「どうしてアメリカ人は、自分達が必要とする自動車を作らなかったんだろう」

日米貿易摩擦で、日本はアメリカから「オレンジを買え!」とか色々言われたんだけれども、あれって、日本がアメリカに自動車を始めとする工業製品を売りまくって儲けていたことが原因で、「売るばっかりじゃなくておめぇらもなんか買えよ!」っていう圧力だったんですよね。

別にオレンジなんかいらないし、アメリカから買いたいと思うものなんてそんなになかったにも関わらず、「貿易不均衡」を是正するために、日本はなんか買わなくちゃいけなかった。

日本にオレンジや米や牛肉を買わせるかわりにアメリカが日本車を買うのをやめるか、日本が「そんないらないものを代わりに買わなくちゃいけないんだったらもう輸出するのやめます」って言っていれば、事態は変わっていたのに。

輸出をやめると、日本は一気に不景気になっちゃうんだけどね。

今がまさにそれだし。

でも、だからこそ1980年代半ばの「日米貿易摩擦」段階で、「輸出にばかり依存しない」産業構造へ一歩足を踏み出しておけば、世界経済はきっと変わっていた。

国内マーケットだけだと全然売り上げが上がらなくて潰れる会社がいっぱい出るんだろうけど、それってつまりは「国内にはもう物が溢れて、そんなに買う必要がなくなってる」ってことだし、もしこの不況を乗り切ってまた「世界マーケット」が復活するとしたって、やっぱり世界中に物が溢れて「もうそんなに買うもんはないな」って時期が訪れてしまったら、いずれ物は売れなくなる。

永遠にマーケットがふくらみ続けるなんてことは、ありえないよねぇ。


「なるほどな」って思うことが色々書いてあって、アヘン戦争を引いての「貿易とはそもそも押し売りだ」みたいなこととか、日本の「商売は一流、政治は二流以下」は日本人の多くが江戸時代の「町民」の末裔だからだ、とか。

「君臨をさせておいて統治はされない」という町民のあり方。

それで日本は十分うまく行くんだけど、「外国」が出てくるとやっぱり個々の「町民」が対応するわけにいかなくなるから、ガタガタしてしまう。

いやぁ、ホントにねぇ。黒船なんか来なきゃよかったんだよ(笑)。

「農業で食っていける」が成立するためには、「工業の側がレベルを下げなきゃいけない」って話も面白かった。

やっぱり、「もう景気が回復することはない。これ以上金銭的に豊かになることはもうない。あとはみんながそこそこで生きていけるよう考えていくしかない」ってことだよね。

まぁ、理屈はわかっても、「その通りだ!」って実践しようとする人は少ないだろうし、実践するのはとーっても大変だと思うけど。

「もう大量生産はしない。基本的には国内で必要な分だけ作って、売る。そしてそこそこの経済規模でやっていく」ってことになったら、それこそ失業者が溢れてしまう。

工業がレベルを下げて、「農業で食っていける」になったら、農業が「受け皿」になるのかもしれないけど……まぁ、そんな簡単にいくわけはないでしょう……。


で。

こーゆー話が「本を読む」とどうつながるかってゆーと。

「簡単にいくわけがないからこそ、自分の頭で考えなきゃいけないんだよ」ってことで、「本を読む」につながるの。

「自分の頭で考える」はそれこそ橋本さんがずーっとおっしゃってることだけれども。

「行間を読む」というのは「そこに書かれていないことを考える」こと。ハウツー本やマニュアル本には「行間」ってものがない。だってそれは「これこれこーゆーふうにしなさい」という指示を与える本であって、下手に自分で考えられたりしたら、その本が導きたがっている結果にたどりつかない可能性が高くなっちゃうんだもんね。

だから私はハウツー本が嫌いなんだけど。

ってゆーか、そもそもそのたぐいのものは「本ではない」と思ってるし。

「文学」や「哲学」というものは「人のあり方」に立脚するもので、「金儲け」のことはあまり考えないし、その役にも立たない。

「考える」ばっかりで、「現実生活」を省みないのはもちろん問題だろうけれども(私のことか?)、「現実」ばかりで「考えない」のも大いに問題なんだ。