橋本治さんの『双調平家物語』が毎日出版文化賞を受賞しました!

わ~い。ぱちぱち。

橋本フリークとして、自分のことのように嬉しいです。

だって橋本さんって、あんなにすごい人なのに、世間的な評価は正直そんなに高くないじゃないですか。この間内田樹さんも「批評家に無視される橋本治」みたいなことを書いていらしたし。

『源氏物語』千年紀で色々イベントが組まれたり、瀬戸内寂聴版『源氏物語』が山積みになっている中、橋本さんの名著『窯変源氏物語』を書店で見かけることはほとんどありません。

なんでや。

『窯変』出版時、書評が出なくて、「いいもん、俺、嫌われてるから」と言ったという話は、『最後の「ああでもこうでもなく」』にも出て来ました。

たこつぼ化した専門家の皆さまには、ジャンルを超えて縦横無尽に展開される橋本さんの「知」が理解できないのでしょう、きっと。

『三島由紀夫とは何者だったのか』で小林秀雄賞を受賞し、その「小林秀雄」についての本、『小林秀雄の恵み』の方も、今回の受賞候補に挙げられていたそうです。

評論的な著作に比べて、これまで特に小説の評価が低かったと思うので、最終的に『双調平家物語』が受賞して、より一層良かったな、と感じます。

まぁ、この受賞で『双調平家物語』が書店に山積みになるかどうかはちょっとわからないんですけど。

なんせ、全15巻。

刊行に合わせて1巻ずつ買っていたからこそ手元に置けたけど、いきなり「全15巻」を買うのは大変ですよね……。

しかも漢字多いんだ、この本(笑)。

いちいち「これって誰だっけ?」と、最初の方についてる系図と、しおりに書いてある人物紹介を参照しながら読み進まなきゃいけないし。

平安貴族の名前なんて、藤原だけでもいっぱいいるからねぇ。
しかも本名じゃなく役職名だけで出てくることも多々あったりして。
今の左大臣って誰? 前(さき)の太政大臣は? みたいな。

楊貴妃や安禄山の出てくる中国の「佞臣・奸臣」の話で始まる第1巻。やっと日本の話になったと思ったら蘇我馬子とかで、「え? 平家物語でしょ?」と思わされる予想外の幕開き。

でもそこからたどる日本の歴史は、教科書なんかではまったく知ることのできない、すごいドラマ。

律令制施行から院政に至るまでの長い歴史を踏まえなければ、なぜ清盛が権力を得られ、そしてその権力が無意味になるのかがわからない。

「日本」のことなんか、何にも知らなかったんだな、って思うし、そもそも日本にはまだ、「まともな国家」が存在していないのかもしれないと思わされる。

「一体、この国に国はあるのか?」

『最後の「ああでもなくこうでもなく」』の中に、『双調平家物語』のテーマというのが書かれてある。

曰く、「この国に、国はあっても国はない――だから、政治の施策の代わりに、権力闘争が延々とあって、それが“政治”だと思われている」

そして、原稿用紙8400枚にもなるこの大部の書を書いて、まだ、

「私としては『これはまだ背景の提出』くらいで、やるんだったら、『改めてここに登場した人間達を主役にして小説を書く』くらいのことをしなくちゃいけない」

ともおっしゃっている。

やっぱりすごいなぁ、橋本さんは。
是非是非、そのような小説も読ませていただきたいと思う。


受賞、本当におめでとうございます。


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