って、書いてあるんですよ、帯に。
「伝説のシリーズ、ついに新装版で登場」って。
『地下室の手記』を買いに行ったらうっかりこの本を見つけて買ってしまった、という話は先週書きました。
いつ読むねん、と書いたけど、もう1巻読んじゃった。ははは。

子どもを耳鼻科に連れて行くだけで、かなり読めます(待ち時間が超長いから)。
体操クラブでも「話しかけないでオーラ」全開で読みふけってしまいました(笑)。
友達なくすで〜、ほんま(爆)。

前置きはこれぐらいにして。
ジーン・ウルフの「新しい太陽の書」第1巻『拷問者の影』。

昔、学生の時に1回読んだ時は、「なんかよくわからない」だったような気がするんだけど、今回はどんどん頁が繰れた。
なんというか、不思議な面白さ。
じわじわと効いてくるというか。

この作品は、SFの賞であるネビュラ賞、ローカス賞、そして世界幻想文学大賞を受賞している「伝説のシリーズ」。
「史上最高のファンタジイ」という帯で、確かに「中世風異世界騎士物語」といった感じで物語が始まる。でも途中からSFっぽくなっていくらしい。
「新しい太陽の書」は全4巻からなっており、8月には日本初訳の続編も刊行される予定。

今度は売れるかしら。
何しろ、前回ハヤカワ文庫で刊行された時は、さっさと「品切れ絶版」になってしまっている。海外では熱狂的なファンを獲得したらしいのに、日本ではあまり売れなかったみたい。
まぁ、ハヤカワ文庫は新刊でも本屋にない、一度機会を逃すと二度と買えない、ということがとても多いけど……。
今でこそファンタジーも花盛りだけど、一昔前はSFやファンタジーって「一部の人だけが読むもの」だったからな。
ちなみに近所の図書館では数年前から「SFマガジン」の購読が打ち切られてしまった。
所詮世の中でSFはそーゆー扱いよ。ぷんぷん!

……話がずれた。

ファンタジーのようにも読めるし、SFのようにも読めるし、とにかくそんな狭小な枠組みを超えた「素晴らしい作品」なのだ、と解説の方が力を込めておっしゃっている。

「中世風異世界騎士物語」と言っても、主人公セヴェリアンは拷問者にして首切り役人。
怖いです。
他の人間達からは、「死が来た!」と怖れられる。
1巻の最初の方はまだ少年で、「拷問者組合」の「徒弟」。途中で一人前の職人に昇格。
セヴェリアンは「完全記憶」の持ち主で、記憶が薄れるということがない。
その「完全記憶」による、セヴェリアンの手記という形を取って出来事が語られていく。

この語り口がまぁ、淡々としてるんだな。
お話の中ではまだ少年で、セリフの部分とかは可愛いところもあるのに、地の文は「もう大人」の彼が書いてるから、淡々としていて、厳しいというか、難しいというか。
時々、「この文章は過去について書いているのか、それともこれを書いている時点での(つまり現在の)彼のことなのか、どっちなの?」とわからなくなるし、ある一つの出来事を語りながら、それにまつわる、まだ読者には関係があるんだかないんだかよくわからないモチーフが語られたりして、「ん?」となることも。

噛みごたえがあるというか。

ライトなファンタジーしか読んだことのない人には、感情移入もしにくいし、その進行の遅さに疲れてしまうかもしれない。
出来事はちゃんと色々起こるんだけど、でも「ジェットコースター」みたいではないし、なんかこう、じわじわと、くねくねと、からみつくように……。

過去を書きながら、セヴェリアンは自分の現在についても時々言及してくれるので、ただの拷問者であった彼が「偉くなっている」ということはかなり早い段階でわかる。
彼の運命に劇的な変化が起こることは最初からほのめかされていて、こちらは説明を期待しながら読むのだけど、なかなかわかるように教えてくれない。
「どうなってるんだ?」
「どういうことなんだ?」
「早く教えてくれ〜〜〜〜〜」
と、頁を繰らずにはいられなくなる。

うん。
でも、やっぱり「語り」自体が面白いんだな。
哲学的な考察、警句みたいのも色々出てきて。

たとえばセヴェリアンが師から餞別に剣を贈られるシーン。
「贈り物をいただくような立場ではない」と言うセヴェリアンに、師は言う。
「贈り物を貰って当然だという場合には、それは贈り物ではなくて支払いなのだ。真の贈り物といえる唯一のものは、今おまえが受け取るようなもののことだ」

セヴェリアンは「愛」と「欲望」について語ってくれたりもする。
「われわれは女性に話しかける時には、まるで愛と欲望が二つの別のものであるかのような口振りをする。そして、女性も、しばしばわれわれを愛し、時にはわれわれを欲するが、やはり同様のフィクションを維持する。実際にはそれらは同一のものの別の相(アスペクト)であって……云々」
ちなみにセヴェリアンはけっこうな美形らしく、女性にモテる。おまけに、彼自身が惚れっぽい(笑)。1巻だけでも3人も好きになってるよ。どうなるんだ、これから(爆)。

早く続きが読みたい♪


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