橋本さんが「子どものための算数の本を書きたい」とおっしゃっていたのはいつのことだったでしょうか。
もうずいぶん前のことだったと思うのですが、やっと、ようやく、出ました!
その名も『いちばんさいしょの算数』!!!

いやぁ、この時期に出してくれるなんて、すごいタイムリーじゃないですか?
まるで私がやたらに算数の話をしているのを見透かしてくれていたみたい。それとも私の方が何か、「もうすぐこの本が出る」というのを超能力で察知していたのかしらん(笑)。

それはともかく、橋本さんの算数の本です。
第1巻は「たし算とかけ算」。
帯にはバカボンのパパが描かれ、「1+1はなぜ2なの? 答えられない人は、みんな読むのだ」と書かれてあります。
裏表紙の方には
「なぜ“2”や“3”は“ブタ”とか“カバ”じゃダメなの?」とも。

本文中で、実際に「もし数の名前がこんなだったら」ということで、「2=ブタ」「3=カバ」「4=サル」……とお話されています。この「数の名前」を使うと、「68」は「バナナシマウマアザラシ」で、「カボチャシマウマジャンボプリン」は「79」。

「よけいわかんないでしょう? みんな数字を見るとヤだな、付き合いたくないな、って思うかもしれないけど、普通の数字の方がずっと楽なんだよ」
と身をもって教えてくれます。

その後「1から10までの数を知っているということは、それだけで足し算の式を128も知っているってことなんだよ」と話が続きます。

この本は「ちくまプリマー新書」で、「ちくまプリマー新書」は大体10代前半ぐらいの子どもを対象に発行されているシリーズですが、これは……ちょうど4年生で「分数」や「小数」に挫折して、もうすっかり算数が嫌いになってしまった5年生、6年生向け、といったところでしょうか。
いえ、もっと前、そもそも「九九」を覚えるところでもう算数が嫌になった、という小学校中学年の子にしゃべっている感じかもしれない。
何しろ、一桁の数しか出てきませんし。
ものすごく懇切丁寧だし。

正直、「自称算数好き」の私には少々かったるかったですが(笑)、でも「ああ、子どもにはこういうふうに教えればいいんだな」という部分でとても勉強になります。
幸か不幸かうちの息子は「読書は大好きだが教科としては国語より算数の方が断然好き」という、私と同じパターンの人間なので、今のところ算数でつまずいてはいないのだけど、もし近所に「もう算数なんかやりたな〜い」という子どもがいたらちょっとこの本で教えてみたいなぁ、と。

うん、だって、本当にこの本が「わかりやすい」かどうかは、やっぱり「算数が嫌い・苦手」な人が読まないとわからないでしょう。
で、これ、内容は小学校中学年で十分わかると思うんだけど、その年齢でこれだけの分量の本をちゃんと自分で読み通せるかっていったら、微妙だと思います。
今、本好きの子と、全然読まない子の差はすごく極端で、6年生になっても「ゾロリ」しか読めないって子がいっぱいいるそうですから。
だから、小学校中学年の子には、「これ読んでみ」と渡すのではなく、一緒に読むとか、「これを元に親や先生が教える」をしなくてはいけない。
どこかにいませんか?
教えてほしい人(笑)。

この本では、「1から10までの数を考える」のと、そこに存在する「たし算を発見する」のに、「チョコボール」を使います。
たぶん学校でも、1年生の時に「算数ブロック」とか「おはじき」とかを使って、「5は3より2大きい」とかいうのを習っているはず。
その教え方自体は「すごく斬新」なわけではないのかもしれないけど、橋本さんは徹頭徹尾「君はこんなに知ってるんだから大丈夫」「別にこれを全部覚える必要はないよ。君はもうちゃんと知ってるんだから」という姿勢なんですね。
決して子どもたちが算数に脅えないように。
自信を持てるように。

もちろん「練習問題」とか「テスト」みたいなものはなし。
学校だとすぐ、「わかったかな?じゃ、この問題をやってみよう」になるもんね。

『双調平家物語』の1巻で、橋本さんは蘇我蝦夷に聖徳太子のことを、「真実頭がよいということは、これほど分かりやすく人に物事を説けることなのか」と言わしめているのだけど、橋本さんってまさに「真実頭のよい人」なのだなぁ、とつくづく思います。

算数がよくできる人にとっては、「算数がわからない」と言っている人がどこでつまずいているのかわからない。つまずいた場所がわかっても、自分にとっては「そんなの当たり前のこと」だから、「なぜこれが飲み込めないんだろう?」と思うだけで、説明してあげられない。
だって自分にはそれは「当たり前」で、いちいち説明する要もないことで、かみ砕いて丁寧に考えたことなんかないようなことだから。

この本で一番「へ〜」と思ったことは、
「算数にはやたらと“=”が出てくるけれども、“=”というのは“おなじ”ということで、算数というのは“なにとおなじですか?”を考える勉強なんです」
というところ。
(上とまったく同じ文章で書いてあるわけではありませんが、こういうふうなことが書いてあります)

うーん、そうか。算数って、そうだったんだ。

この本は全4巻になるらしく、2巻目の「ひき算と割り算」は来月出ることがもう決まっています。
3巻目では「2桁以上の数」を扱うらしく、4巻目は……わかりません。まだ何も言及されていませんでした。
私的には「小数と分数」だったらすごく嬉しいんですけど、どうでしょう。「図形」でもいいな。円周率は……「いちばんさいしょ」ではないか?

ところで「ちくまプリマー新書」の記念すべき「番号1番」(つまり創刊時のラインナップ)は同じ橋本さんの『ちゃんと話すための敬語の本』で、「番号2」は内田樹さんの『先生はえらい』でした。
ああ、こんなところでも橋本さんと内田さんはご一緒されていたのですね。
うふふ。