やっと見てきました!
星組の『エル・アルコン〜鷹〜』!!
トウコちゃん(安蘭けい)のティリアン!!!
開幕から1ヶ月あまり、もうあと1週間で公演終わっちゃうんだもんね。ほんと、待ちに待った観劇でした。

実は先月、開幕直後に実家の母が見に行っていて、「いまいちだった」という感想を漏らしていたのですが。

いや、なかなか良かったよ!
母も、「今日の方が良かった」と言ってたし。

たぶん、原作を読んでない人には盛りだくさんすぎて1回では話が追えないのだと思う。
何しろ原作では『七つの空七つの海』『エル・アルコン〜鷹〜』『テンペスト』と三つの時間軸で語られる話がいっしょくたにされて、1時間40分で一気に片付けられちゃうんだもん、大変です。

ほんと、よくこんだけ全部詰め込んだなぁ、と逆に感心する。
ペネロープもジュリエットもシグリットもキャプテン・ブラックも、み〜んな出てくるんだもん。初見の人は人間関係を把握できないのではないかしら。
もう少し登場人物を減らしてすっきりさせても良かったんじゃないかな。その分ニコラスのシーンとか増やして。

短い時間で全部やらなくちゃいけないので、とにかく展開がめまぐるしい。一つ一つの場面が短く、どんどんとスピーディーに進んでいく。
原作を知っている私にはそのたたみかけるような展開が緊張感を作り出して、「これでもか!」というティリアンの息詰まるような野心、「悪の美学」をうまく際だたせているようにも思える。

うん、トウコちゃんのティリアンはさすがですよ。
かっこいい。
深紅の衣装も素敵でねぇ。
まぁ、原作のティリアンはもっと低い声だと思うし、歌も歌わないと思うけど(笑)、「冷酷でありながら燃える野心を秘め」というティリアンの本質は見事に表現されていると思う。

ほんま、宝塚史上始まって以来の「ダークヒーロー」だよね。
トウコちゃんはこれまでにも石川五右衛門とか龍星とか、単純な「正義のヒーロー」ではない役を演じてきてるけど、彼らはまだ苦悩してたし。
ティリアンは悩まない。
「野心に理由などない」
振り返らない。
自分が悪だということはちゃんとわかっていて、突き進む。

ペネロープを誘惑するシーンも、ギルダに「服を脱いでください」と言って手込めにする(!)シーンもちゃんと再現されていてびっくりした。
いいんですか、すみれコード!?
私の後ろで小さい子見てましたよ!
「女は抱かれていればいい」なんて、宝塚の舞台で言っちゃっていいの!?

しょうがない。
あれもティリアンの魅力の一つだ。
はずせない。
宝塚だから、いやらしくはないし。

トウコちゃん、ほぼ出ずっぱり。
歌も歌いまくり。
トウコちゃんファンにはたまらない舞台です。
その分他の人のファンの方には物足りないことも多いかも。
トウコちゃんがあまりにうまくて存在感ありすぎるので、キャプテン・レッドの柚希さんも今ひとつ影が薄かった。
ギルダ役の遠野あすかちゃんはちょっと作りすぎの感があって、もう少し普通に演じても良かった気がする。

ギルダと言えば。
この役が一番原作と違ってて、「子供時代のティリアンとの接触」が挿入されている。
ちょっとは宝塚チックに、ロマンチックにしたかったのかもしれないけど、あれは蛇足だ。
ティリアンとギルダは互いに海に惹かれ、海に命を賭けるもの同士、それだけで十分にお互いを認め、愛情を抱く理由がある。「あの少年はあなただったのね」みたいなとってつけたような理屈はよけいだ。

よけいなものがもう一つ。
うちの母が、「最後のあれ、いらんわ。船が沈んで死ぬとこで終わった方が感動的や」と。
ニコラスが「まだ七つの海を見せてもらっていません」と言って、ティリアンが「見せてやるぞ」と言いながら、その夢が海に散っていく最期。
確かにここ、良かったのよ。
原作でも大好きだし、舞台でもうまく再現されていたと思う。

その感動の最期の後、キャプテン・レッド達のシーンがあって、ティリアンの子供の頃のシーンがはさまれ、天国のような感じで、船に乗るティリアン、ギルダ、ニコラスのシーンがあるのよね。
もう一回歌って終わりましょう、みたいな……。

母の言う通り、死ぬとこで終わった方がより感動的だったろうな。
かっ!と照明が光って、どーんとかいう音があって、暗転して幕が降りてきて、逆巻く波の音が流れて。

でも全体的には、良かったと思う。
ニコラス役もちゃんとかわいい子がやってたし。
ニコラスの見せ場がなかったのが残念……。
他のキャラクターやエピソードを削って、ニコラスがティリアンに「一生ついていきます!」と思ったとこを入れてほしかったな。

『アル・カサル』を読んだ後なので、スペイン無敵艦隊の礎を作ったのはドン・ペドロなのよね、とか、ドン・ペドロの娘を一時的にもせよ援助して再びその血筋に王冠を戻したイギリスがスペインをやっつけてしまうんだな、とか、考えたりもした。
歴史の大きなうねりの中で、己の信じた道を突き進む者達……。

宝塚大劇場は15日で終わりだけど、まだ東京公演があります。是非トウコちゃんの「悪の美学」を見に行ってください。
もちろん原作を読んで人間関係把握してからね(笑)。




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