開始から24年、13年の中断を経て先頃完結した青池さんの歴史大河ロマン『アルカサル』。
お友達に借りて全13巻を一気に読んだ。
いや、「一気に」というのは嘘だな。
9巻ぐらいまではがーっと読んだんだけど、最後が近づいてくると読み終わるのがもったいなくなって、12・13巻あたりは「読みたいけど読んだら終わっちゃう!」となかなか手に取れなかった。

いや〜、ほんとに素晴らしい物語だった。
青池さん、ありがとう。
貸してくれたTちゃん、ありがとう。
実はTちゃん、昔持っていた『アルカサル』を始めとする青池作品を、結婚した時か何かの機会にすべて捨ててしまったらしい。
それで私が『エロイカより愛をこめて』や『エル・アルコン』を貸してあげたら、「『アルカサル』は私が買うわ!」とつい先月全巻大人買いしてくれたのだった。
「どーしてこんな面白いマンガ捨てちゃったのかしら〜」と徹夜で読んでしまったらしい。

持つべきものはマンガ友だち。

14世紀半ば、スペインはカスティリアの王だったドン・ペドロの短くも熱い生涯を描いた物語。
謀略と裏切りと戦いにつぐ戦い。
もちろん脚色はあるのだろうけど、ほんとに「事実は小説より奇なり」だと思う。
複雑に絡み合った、国同士の取るか取られるかの争いがすさまじくて、利に聡い貴族達の裏切りにつぐ裏切りも呆れるほどで、「みんなそんなにエネルギーが余っていたのか?」と思うほど。
そんなによその国が欲しいものか。

異腹の兄エンリケの王冠に対する執念が、常にドン・ペドロを苦しめ、最後には彼の命を奪ってしまう。
庶子であるがゆえに、長兄でありながら王位に就くことができないエンリケの悔しさというのはわかるけれども、しかしなぁ。
それほどまでしてドン・ペドロを倒し、王冠を得ても、結局彼は何も手に入れられなかったんじゃないだろうか。
そこへ行けば幸せになれると信じてたどりついた場所には、荒涼たる孤独と虚しさだけがあったのでは。

わかっていても、欲することをやめられない。
それが人間の業なのかもしれない。
それがあるからこそ、人間は醜くもなるかわり、美しくもなれるのかも。

ドン・ペドロ本人が実に魅力的でかっこいいのはもちろんなのだが、私が一番好きなキャラクターはその妻のマリア。
ドン・ペドロが生涯の愛を捧げた女性。
実に聡明で美しく、かつチャーミング。
本物の素敵な大人の女性だと思う。
そして王との関係は本物の大人の愛。
子どもがいても「私の前では母ではなく恋人でいろ」なんて、言われてみたいわよね〜。
王様、あっちこっちの女に手ぇ出してるけどさぁ。
それでも「本気」はマリア一人だし、モテモテでいくらでも愛人のいる男前に「おまえは私の最高の女だ」と言わしめるマリアはやはりすごい。

そして。
コルドバの騎士マルティン・ロペス。
これがまた、ものすごくかっこいい。
王に忠実な死刑執行人。
でも決して冷酷な人間ではなく、シャイで誠実で真面目な人なのよねぇ。
幽閉されていたドン・ペドロの王妃ブランシュ(彼女が存命の間、マリアは愛妾だった)が彼に惚れて無茶をしてしまうのは、実によくわかる。

色々と、素敵なエピソードが多いのだけど。

やはり最後が、涙なくしては読めない。
ドン・ペドロが死ぬその場面よりも、王の死を受け止めてなお奮闘するロペスや、残された王女コンスタンシアのがんばりに泣けるのよねぇ。
13年の時を置いて前後編で書かれたラストは、歴史のうねりを実によく感じさせてくれて、じわーんと深く感動する。

人間って……。
歴史って……。

『ローマ人の物語』もそうだけど、こんなの読んでるとホントに自分の書いてるもんがバカバカしくって薄っぺらくて嫌になる(涙)。

でも。
読めて幸せ。
青池さん最高!!!