先日、文庫OFFが閉店20%オフセールをやっていたので、かねてから読みたいと思っていた『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を買った。
かつて赤瀬川原平さんが「新解さんの謎」を出版する契機となったSM嬢こと夏石鈴子さんが書かれた本だ。

新解さんの凄さについては以前にも書いたが、やはりこうしてこれでもかこれでもかと語釈や用例を並べ立てられると、あまりのことに笑い転げるしかない。
しかも夏石さんのツッコミが絶妙である。
いくら新解さんが凄くても、普通の人はなかなかここまで読み込めない。夏石さんがツッコんでくれることで、私達の目にも新解さんの底力がくっきりと見えてくるわけだ。

私がずっとくすくす笑いながら読んでいたので、息子が「そんなに面白いの?僕もその本読んでいい?」と言ってきた。
是非勧めたいところではあるのだけど、一部「18歳未満の人は保護者と一緒に読んでください」というところもあるので(本当にそう書いてあったのだが、今探すとそのページが出てこない。どこへ消えた?)、渡すべきか渡さざるべきか、ちょっと悩む。

例えば「いかす」という語である。
「あの帽子、いかすわね」とか「あの人、いかしてるよね」とかいう「いかす」だ。
旺文社の辞書には「格好がよくて人の心をひきつける」とだけ書いてあるのだが、新解さんは〔 〕でただし書きをつける。
「〔もと、合体の際、男が女にエクスタシーを与える意〕そのもののよさが自分をひきつける」というふうに。

私はこの語釈を『新解さんの読み方』で初めて知ったのだけど、「ああ、そうなの!?」と思って妙に感動してしまった。手許にある最新第6版でも「いかす」の語釈はこのままだ。
「いかした男」というのはそーゆー意味なのか?と思うと、あまり頻繁にこの語を使うのはやめよう、という気にもなる。

「じゃあ“イケてる”の方はどうなんだろう」とも思ってしまうし。

「いけてる」とか「イケメン」という単語は、新解さんにはまだ載っていない。
「いけてる」は「いける」+「ている」だと思うけど、「いける」は
「〔「いく」の可能形〕相当な水準にまで達している」と説明されている。
「この料理はなかなかいける」とかいう時の「いける」ですね。
となると「イケメン」は「相当な水準にまで達している男子」ということになるのでしょう。
エクスタシーどうこうとは関係がないように見えるけど、「いける」のもとである「いく(本来は「ゆく」)」の項には「好(望)ましい状態に達する」という語釈があって、そこに「狭義では男女の……」というただし書きがあったりする。

そんなの探すなよ(笑)。

「かっこいい男」を表現するのに「いかした男」という言葉はちゃんとあったのに、それが「いけてる男」になったのはどうしてでしょう。
もちろん「あの男はいける」という言い方も昔からあったのでしょうが、その場合「かっこいい」だけではなく、「役に立つ」とか「能力がある」というふうにも使えたでしょう。
まぁ「かっこいい」ということは、女にとっての男の第一の能力なのかもしれませんが。

「いかす」は「いく」の「使役形」で、「いける」は「いく」の「可能形」。
女の立場が強くなって、主語が女になったのかな、と思ったりします。